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第九章 ゲームマスターガイド

(ひん)に礼あれば主(しゅ)(すなわ)ち之(これ)を 択(えら)
--- 春秋左伝‐隠公十一年


「秘伝の声」は、 時代劇にあるいろいろなスタイルのすべてを包括できるよう作られた、 非常に柔軟なシステムです。 しかし自由度の高い反面、「どんな風にシナリオを作ったらいいかわからない」 「マスタリングの方針がはっきりしない」という理由で、 「秘伝の声」のGMをすることを躊躇している人もいるかもしれません。

この章では、「秘伝の声」のGMをやってみたい方に、 本格時代劇らしいシナリオ作り、マスタリングの指針を説明します。 これを読んで、「秘伝の声」流の本格時代劇のマスタリングに挑戦してみましょう。

九ノ一 「時代劇らしい」シナリオ作り

TRPGをプレイするにはシナリオが必要です。 マスタリングの腕も必要ですが、「よいシナリオ」を準備することも GMにとってはまた大切な仕事です。 「よいシナリオ」の条件は人によって異なるでしょうが、 「その世界観をよく表している」というのもその一つでしょう。

ここでは、時代劇らしいシナリオの作り方について簡単に述べます。


九ノ一ノ一 時代劇のスタイル

SFやファンタジーと同様に、時代劇にもいくつかのスタイルがあります。 例えば、同じテレビ時代劇でも、「名奉行¥sp 遠山の金さん」と「鬼平犯科帳」では だいぶスタイルが異なります。 その違いは、例えば「時代考証重視か娯楽性重視か」 「チャンバラ重視かドラマ重視か」 「史実に忠実か荒唐無稽か」 「ヒーロー主義か集団劇か」などといったことが組み合わさっています。

GMはプレイヤーと話し合い、 どのような時代劇のスタイルでプレイするかを決めておくべきです。 可能ならば、「このドラマ/映画/小説/…のスタイルでやる」と決めて、 それをPC全員に示すとよいでしょう。


九ノ一ノ二 時代の選びかた

いわゆる時代劇、というものが考えている時代は江戸時代ですが、 場合によっては前後に少しはみ出ます。 では、この300年ほどの、いつでプレイすればよいのでしょう。

プレイのしやすさから言えば、 まず文化文政(1820年頃)時代が挙げられます。 現在残っている江戸文化というものは、 たいていは化政文化で作られたか、あるいは完成していました。 この頃を舞台にしている小説や時代劇も多いので、参考になります。

それから幕末も遊びやすいでしょう。 さまざまな事件が起きていますし、 剣術や学問などが盛んですから、変化に富んだプレイが楽しめるでしょう。 「遠山の金さん」や「半七捕物帳」はこの時代を扱っています。

元禄時代は、 派手な元禄文化が花盛りでなかなか魅力的なのですが、 調べてみると、元禄時代の風俗というのは、 我々が考えている江戸の風俗(つまり、たいていは文化文政以降)と予想以上に 異なっています。 それをしっかり踏まえれば面白く遊べそうですね。 大胆に無視して、いいところだけとるというのも手かもしれません。


九ノ一ノ三 職業の選びかた

「秘伝の声」ではあらゆる時代劇を再現するために、たくさんの職業があります。 これらすべてをプレイヤーに自由に選ばせたら、 それこそGMは収拾がつかなくなってしまいます。

この問題を解決する方法は二つあります。 一つは、このシナリオにはこれこれの職業が欲しい、 とGMがプレイヤーに宣言すること。 もう一つは、プレイヤーに先に職業を選ばせ、 それにあわせてシナリオを作ったり、書き直したりすることです。 シナリオの書き直しは非常に大変ですから、 最初は職業をGMから提示するのがよいでしょう。 場合によっては、GMがあらかじめキャラクターを作っておき (プレロールドキャラクター)、それをプレイヤーに選ばせてもよいでしょう。

職業を選ばせる場合、 身分、あるいはゲーム内での役割にそれほど差をつけない方が簡単です。 一番簡単なのが、全部のPCのゲーム内での役割を同じにしてしまうことです。 「仕事人もの」はその典型的な例ですが、 その他にも、

などと、いろいろと考えられるでしょう。

なお、キャンペーン化するなら、 もっと思い切ってPCの職業を自由にしてしまってもよいでしょう。 例えば老剣客とその息子、息子に思いを寄せる娘に 老剣客の昔の弟子、息子の友人、などなど、 世界/ファミリーを作っていきましょう。 もちろん、すべてのシナリオで全員のPCを均等に活躍させるのは無理ですから、 今回は彼が活躍したから、 次回は彼を主役にして……などとするわけです。


九ノ一ノ四 所持金について

各キャラクターの所持金については、明確には決められていません。 「秘伝の声」のキャラクターは、江戸に生活する一般人です。 ですから、少なくとも生活に必要な品は持っていますし、生活必需品は簡単に手に入ります。 また、贅沢品は庶民には手が出ないほど高額ですし、 身分不相応の者がそうした品を購入しようと思えば、かえって怪しまれることになるでしょう。 そうした品を手にできるのは、大商人や裕福な旗本、大名くらいのものです。

たまに茶店で茶を飲む程度の小銭なら、たいていの場合、持っていることにしてかまいません。


九ノ一ノ五 ストーリー作り

時代劇でも、ストーリーの骨格の作り方はごく一般的です。 時代劇だからワンパターンに、とか、勧善懲悪に、などというのは誤りです。 普通にストーリーを作ればよいのです。 そして、状況や時代によってそれを手直しし、 仇討ちや悪代官、借金取りなどといった時代劇の典型的な小道具を うまくストーリーに取り入れ、時代劇らしさを演出しましょう。 ただし、これらを多用し過ぎると、それこそワンパターンになります。 あくまでもスパイス程度に効かせましょう。

シナリオフックも忘れてはいけません。 いわゆる仕事人ものや捕物帳の場合は必然的に事件に携わるので、 シナリオフックにそれほど頭を悩ませなくてもよいでしょう。 そうでない場合は、いかにしてPCたちを事件に巻き込むか、が問題になります。 シナリオフックをうまく使って、 動きにくい身分、職業を持つPCを動かす材料にできれば、いうことはありません。


九ノ一ノ六 戦闘の割合

「時代劇といえばチャンバラシーン」と思われる方も多いでしょうが、 時代劇での戦闘は、実はあまり多くありません。

前述したように、時代劇ではシティアドベンチャーが主体になります。 また、PCも非戦闘員のキャラクターが多くなったりもします。 そのため、プレイの時間の多くは、 情報収集とその検討に費やされることでしょう。 時代劇というと派手な立ち回りが思い浮かびますが、 実際は、戦闘シーンはあまり多くありません。 シナリオのクライマックスシーンを除けば、 劣勢になると敵が逃げてしまうようなこぜりあいくらいのものです。

ファンタジーRPGでは戦闘の割合が意外に多いものですが、 やはりシナリオにめりはりをつけるために行われます。 同様に、「秘伝の声」をプレイする上でも、 戦闘はシナリオに緊張感をもたらす役目を果たします。

また、時代劇の戦闘は街中で行われるため、滅多なことでは起こりません。 戦闘が起きるとすれば、 そこには陰謀の影や事件の状況変化が感じられることでしょう。

数少ない戦闘の機会を効果的に使うことがGMには求められるのです。


九ノ一ノ七 敵NPC設定の注意

クライマックスシーンでは、 一対一の戦闘(親玉戦闘)になるパターンが自然と多くなるでしょう。 それは時代劇のパターンだからですが、ここで緊張感のある立ち会いをし、 激闘の末敵を倒せば、プレイも俄然(がぜん)盛り上がるというものです。

しかし、「秘伝の声」の戦闘では一撃でキャラクターは死んでしまいます。 敵が強すぎると、あっという間のPCは斬り殺されてしまいます。 逆に弱いと、PCが簡単に打ち倒してしまい、緊張感もあったものではありません¥!

親玉戦闘のポイントは、経験能力値の〈気合い〉と〈精神力〉にあります。 どちらが先手を取れるか、という緊張感を出すためには、 対峙がすぐに終わってしまってはつまりません。 NPCの〈気合い〉と〈精神力〉の合計をPCの〈気合い〉と〈精神力〉の合計と同じか、 少し(2ポイント程度)少なめに設定するのがよいでしょう。 割合は、〈気合い〉と〈精神力〉で半々にするか、 PCの割合と逆にするとおもしろい戦闘ができます。

また、「ダイスの振り直し」、「負傷の軽減」のルールは親玉にも適応されます。 ですから、親玉の座布団をどの程度にするかが重要になります。 だいたい、親玉は一般の行動判定をおこなうことはめったにないので、座布団を使うとしたら戦闘のときだけになります。ですから、1回の死亡を無効にできる程度、すなわち2ぐらいが適当でしょう。親玉の強さを表現するのに、パラメータではなく座布団を少し大目にするのも良い考えです。

九ノ二 「秘伝の声」マスタリングのコツ

「秘伝の声」を楽しんでプレイするためには、 やはり、時代劇の感じを出してマスタリングすることが大事です。 しかし、時代劇らしいマスタリングというのは、 一朝一夕でできるわけでもありません。

ここでは、マスタリングをするにあたって注意する点、工夫すべき点について簡単に述べます。


九ノ二ノ一 職業ごとに見せ場をつけよう

「秘伝の声」にある職業には、まったく役に立ちそうにないものもあります。 しかし、そういった職業のキャラクターに見せ場を与えるのもGMの腕かもしれません。 時代劇ではいわゆるシティアドベンチャーというものが主になります。 むしろ、日常の中で起きる事件に巻き込まれるというのが適切でしょうか。 ともかく、プレイは情報収集が多くなります。

戦闘向きでないPCは、日常生活の中から事件に巻き込み、NPCとの出会いや、 コネを使っての情報収集、張り込みなどの役割を与えるとよいでしょう。

戦闘で見せ場を作れるPCは家に座して動かず、 他のPCに指示を出している方がよいですし、 その方が雰囲気が出るというものです。 その代わり、クライマックスの立ち回りでは思い切り暴れてもらいましょう。

あるいは、プレイ前に、PCの一人を主人公に任命してしまうのも一つの方法です。 その方が、プレイヤーもそれぞれのキャラクターのロールプレイがしやすいかもしれません。主人公に適しているのは、派手な見せ場を作れる武士などの、 戦闘向けのキャラクターです。 「全員が立ち回りをやりたい、主人公をやりたい」という場合には、 「大江戸捜査網」のような、 グループで活躍するシナリオでプレイするのが良いと思います。


九ノ二ノ二 One True Worldの呪いに気をつけよう

資料が多いTRPG(例えば「ルーンクエスト」など)では、 One True Worldの呪いに囚われがちです。 つまり、資料にかかれている世界こそが唯一の真の世界であり、 それから外れることは許されない、ということになりがちです。

「秘伝の声」は、ルールブック自体の情報量はそれほどでもありませんが、 江戸時代という過去に実際にあった時代を扱っているため、 ある意味では最も資料が多いTRPGの一つといえます。 時代考証から外れることを恐れるあまり、 シナリオも書けない、脇にそれるプレイもできない、では本末転倒です。

テレビ時代劇風の荒唐無稽なものはもちろんのこと、 時代考証を考えたプレイにおいても、 GMがそうした方が良いと思うなら、時代考証をねじ曲げましょう。 歴史的事実よりも、GMの世界観の方が大切なのです。


九ノ二ノ三 時代劇は貪欲に見よう、見せよう

マスタリングにあたっては、GM自身が世界観を決めている必要があります。 そのためには、たくさんの資料にあたらなければなりません。 TVやビデオでもたくさんの時代劇を観ることができますし、 本書の付録でも時代小説を紹介しています。 時代考証本を読んだり、博物館に行ったりするのも一つの手でしょう。

「これは」と思うものがあれば、 プレイヤー全員に見せるなどといったことも大事です。 そうすると、有名人が出てきたとき、 有名な事件に巻き込まれたときなどの感動も高まりますし、 「武士の一分を立てるために苦しむ」などという状況もプレイでき、 幅が広がるでしょう。

九ノ三 最後に

「秘伝の声」のシナリオ作りとマスタリングについて、 かいつまんで説明してみましたが、いかがだったでしょうか。

ここで述べたことは、時代劇だから、といって特別なことはなく、 ごくあたりまえのことも結構あります。 基本に忠実なシナリオ作りとマスタリング、それが「秘伝の声」で最も重要なのかもしれません。


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