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第十章 サンプルシナリオ「敵討ち」

男は閾(しきい)を跨げば七人の敵がある
--- 双蝶蝶曲輪日記‐四


このシナリオは三〜六人くらいのプレイヤー人数で遊ぶのに適しています。

PCの職業制限は特にありませんが、 大名や旗本などでプレイするのは難しいと思われます。 また、武術系技能を持ち、 さらにCPを「(一般的な)主人公レベル」で作成したキャラクターが一人以上いるとよいでしょう。

十ノ一 発端

ある日、PCが住んでいる長屋の住人の一人が長屋の部屋で、 四、五人の破落戸に脅されているのをみかけます。 この住人は二助という大工です。 二助は博打好きで、諸方の賭場によく出かけていますが、 負け分の借金を取り立てられているようです。

PCが仲裁に入れば、破落戸どもはつっかかってきますが、 破落戸の仲間の一人に、総髪の浪人がいて、 破落戸どもを押し留めます。 すると「今日は勘弁してやる」などといって去って行きます。

この浪人はこざっぱりとした格好をしており、 破落戸どもよりも羽振りがいいようにみえます。 破落戸を押し留めた時の言葉に、かなり地方のなまりがあるように感じられます。 また、武術の心得のあるPCならば、 この浪人が相当に武術の修行を積んだ強者であることがわかるでしょう。

二助の役をPCにしてもよいでしょう。

十ノ二 出会い

それから数日後、PCは一人の青年と出会います。 彼の名は三船弥太郎。 浪人をしていますが、実は東北地方のある藩を出て、父の敵を探しています。

彼と出会うPCは、二助の長屋にいない人物か、 二助の災難に立ち会わなかったPCで、できれば主役級のキャラクターがよいでしょう。

弥太郎との出会いのシチュエーションはいろいろなパターンが考えられます。 剣術の技能を持っているなら、 いつも通っている道場に食客として身を寄せているというパターンがやりやすいでしょう。 他にも、行き倒れているところを助けるなどのパターンが考えられます。

三船弥太郎は明るく人のよい人物です。 PCとはたちまちに意気投合することでしょう。 PCが信頼のおける人物であることがわかると、 彼は自分の身の上について話しはじめます。

彼は今、敵討ちの身です。 五年前、彼の父親である三船大蔵が斬殺されました。 下手人は三船と同藩だった葉月利兵衛。 葉月は三船と同じ道場で剣術の修行をしていました。 三船は温厚で真面目な性格でしたが、 葉月は放蕩無頼な性格で、弟子達にも嫌われていました。

ある日、道場での口論の末、木刀を持って勝負した二人でしたが、 三船が辛勝をおさめました。 その結果が気に入らなかったのか、葉月は真剣での立ち合いを申し込みましたが、 三船はそれを断りました。 その夜、仲間と酒を楽しみ、帰宅する途中の三船を葉月が闇討ちにし、 逃走しました。

葉月は、そのまま同藩を脱藩。 行方知れずとなったため、犯人が葉月であることはすぐにわかりました。 葉月は、親類縁者からは勘当され、縁を切られました。

当時十六歳だった三船弥太郎は、すぐに敵討ちを果たすために旅に出されました。 以来五年間、彼は父の敵である葉月利兵衛を追いつづけ、江戸までやってきたのです。

葉月を探す手掛かりは、弥太郎自身が葉月と面識があることと、 葉月が彼と同じ方言を使っていること。 この時代、方言は今の中国の状況と同じくらい、 江戸の言葉とかけ離れていました。 そのため、なまりのある人間はとても目立ち、 敵討ちの手掛かりとしてとても有力なものだったのです。

弥太郎は旅をしながら剣の腕を磨いてきました。 しかし、逃げた当時の葉月の腕にはまだいたっていないようだということは、 当の弥太郎にもわかっている様です。

十ノ三 探索

PC同士が話しをすれば、 二助のところにきた借金取りの浪人が葉月であることは見当がつくでしょう。 弥太郎とその浪人のなまりは同郷であることを物語っています。

一週間もすると、再び借金取りが二助(あるいはPC)のところへやってきますが、 その時には浪人は付いて来ていません。 そして、二助はこの日に何とか借金を返してしまいます。

二助に聞けば、どこの賭場で借金を作ったのか教えてもらえます。 賭場は江戸郊外の小さな別荘です。 二日に一度そこで賭場が開かれ、今日はちょうどその日にあたります。 その別荘の持ち主は、さる商人ということくらいしか彼は知りません。 二助がそこを知ったのは三ヶ月ほど前、 別の賭場で親しくなった男に誘われたからだといいます。 二助はその男の名も知りません。 二助が大負けしたのは、二回目にその賭場を訪れた時だといいます。 また、葉月利兵衛についても、二助はまったく知りません。

別荘の賭場へと出かけていくと、PCはすんなりと中に入れます。 見た目はごく普通の賭場ですが、博打に詳しい人がみれば、 どうもいかさまをして特定の客から金を絞りとっているように見えます。

賭場の客二、三人に聞いてまわれば、 この別荘が高利貸しの内田屋智佐衛門のものであることがわかります。 また、口調になまりのある男についてたずねると、 葉月らしい人物がたまに出入りしていることもわかります。 しかし、その男は葉月利兵衛ではなく、田無右衛門と名乗っているそうです。

もちろん、この田無と葉月は同一人物です。 弥太郎にこっそりと顔を見せれば、すぐに確認できます。

葉月はいまその名前で、内田屋の食客となっています。 内田屋を張っていれば、その日のうちにそのことはわかるでしょう。 もちろん、賭場で待っていれば、数日後には葉月があらわれるでしょう。

十ノ四 対決

葉月と弥太郎の対決の状況はプレイヤーが考えて作らなくてはいけません。 外出する内田屋の護衛についている葉月を襲うもよし、 果たし状を葉月に届けるもよしです。 賭場で暴れてもかまいませんが、その時は雑魚キャラが必要になるでしょう。

葉月は自分の剣の腕前に自信をもっており、 少なくとも弥太郎は返り討ちにできると考えています。 実際のところも、弥太郎では、葉月には役不足です。

PCは助太刀として、葉月と対決するかもしれません。

十ノ五 結末

弥太郎が葉月を倒すことが、最も望まれる結末です。 そうすれば、彼は晴れて故郷に戻り、 家を継いで、家族といっしょに暮らすことができるようになります。

どのような結果で終わっても、PC全員に適正なCPを与えてください。

十ノ六 シナリオを変えてみる

このシナリオをそのままプレイすると、 勧善懲悪の時代劇の雰囲気でプレイできますが、 ここではちょっと渋めのプレイを味わうためのシナリオの変更について述べます。

時代小説風のプレイがしたいGMは参考にしてみてください。

実は葉月は好人物で、三船を殺したのは三船が悪事を働いており、 手をかけざるをえなかった、という風に変更します。 非は弥太郎の父にあるわけですが、 弥太郎はこの事を知らずに敵を追っていますが、 その事実をPCは偶然知ってしまいます。 さて、PC達はどうするでしょうか?

実は葉月はもう年老いており、 病に冒されて明日をも知れないわが身となっています。 三船弥太郎も壮年で、すでに敵討ちの情熱を失いつつあります。 葉月はもうこの世に未練もないので、 弥太郎に討たれてやってもいいと思っていますが、 近所に住む放蕩無頼の破落戸どもを見捨てておけず、 一人ずつ倒して一掃しようとしています。 さて、両者の立場を知ってしまったPCはどんな行動に出るでしょうか?

■NPCデータ

葉月 利兵衛

男 / 36歳 / 武士 / 用心棒 / CP +50
余りCP: 0 / 座布団:2

経歴
10 〜 21 : 藩士 (データは御家人と同じ物を使用)
21 〜 34 : 浪人
34 〜 36 : 用心棒
能力値
腕力:-1 / 敏捷:1 / 器用:0 / 知恵:-1 / 知覚:1
経験能力値
気合い:2 / 精神力:1 / 勘働き:1
特徴
体格:+3
性格
高慢:-5
特技
礼儀作法:3
読み書き:1
内職(風車作り):2
地域知識:1
殺気感知:1
大音声:1
技能
剣術(才能5):8(1800pt.)

武器斬り突き致死値間合いかわし受け流し
打刀3D+82D+863 3D+93D+73D+8

「この世は、強い奴が得をし、弱い奴が損をする。 俺は強いから、今までやりたいように生きてきたし、 これからもそうするさ」

「俺に斬られて死んだ奴は、 ただそれだけの価値しかなかったということよ。 かたきがどうのというのは下らぬことだ」

「だれも俺にかなう奴がいないというのも、それはそれで退屈というものだ。 せめて酒でも飲まんとやっておれんな」

三船 弥太郎

男 / 21歳 / 武士 / 浪人 / CP +20
余りCP: 1 / 座布団:1

経歴
10 〜 16 : 藩士 (データは御家人と同じ物を使用)
16 〜 21 : 浪人
能力値
腕力:-1 / 敏捷:1 / 器用:0 / 知恵:0 / 知覚:1
経験能力値
気合い:1 / 精神力:1 / 勘働き:2
特徴
---
性格
義理:-10 / 忠義:-10
特技
礼儀作法 : 2
読み書き : 1
内職(提灯張り) : 2
地域知識 : 1
技能
剣術(才能2):4 (396pt.)

武器斬り突き致死値間合いかわし受け流し
打刀3D+42D+463 3D+53D+33D+4

「一度は師範代を勤めた葉月に比べて、私の腕などたかが知れています。 しかし、父のかたきを討たなくては、私も武士としての名が立ちません」

「私に父の半分でも剣の才能があれば……いや、つまらないことを申しました。 相手がどうあれ、私はただ一念を持って向かうだけです」

「今日のような寒い日は、私の生まれ故郷を思い出しますよ。 国元で待っている母のためにも、何としても葉月を見つけ、そして倒さなくては」


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