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「殺しの掟」におけるゲーム内時間の設定

富田浩之 '99.06.01


はじめに

仕掛人増補版「殺しの掟」は楽しんでいただけていますでしょうか?

さて、先日、ある読者の方からこのような意見を戴きました。

「仕掛人はRPGのネタとしては適していないのではないか」

仕掛人は長い期間をかけて相手のことを調べ上げて仕掛けるけれども、それを再現するのにRPGは適していない、ゲームとして成立しないのではないか、緊張感あるプレイはできないのではないか、というわけです。

確かに、普通のファンタジーRPGなどのようにプレイすれば、ゲーム内時間でも数日で達成されてしまうでしょうし、PCの行動を一日一日ことこまかにやっていたのではゲームになりません。

このようなことはGMが調整するべき事柄だと考えていたのですが、読者の方からいただいた意見ですから、やはり改めて説明する必要があるようです。

「殺しの掟」で仕掛人やとがり屋をプレイする上で重要なことは、特に調査や下準備のパートにおいて、「ゲーム内時間の設定をいかにするか」です。GMは、プレイヤーの緊張感と集中力を維持し、それでいてプレイ時間は同じでも、ゲーム内での時間は長期間に渡る仕事を感じさせなくてはなりません。

さて、ゲーム内時間の設定の具体的な方法ですが、「ゲーム内時間を適当なスケールの単位に区切って処理」をします。これを押さえておけば、「殺しの掟」のプレイは緊張感を維持しつつ、それらしいプレイをすることができます。


仕掛人の時間設定

繰り返しになりますが、仕掛人は短くても数ヶ月、長ければ一年二年をかけて仕掛けを行います。この期間を一日一日処理していったのでは、ゲームになりません。

さて、仕掛人は仕掛けの下準備の期間中、仕掛けの準備以外には他に何もし ていないのかというと、そうではありません。表の職業を営みながら、少しず つ下準備を重ねていくのです。下準備にたっぷりと時間をとることができる日 もあれば、表の職業が忙しくて全くできない日もあるでしょう。

また、仕掛人は念には念を押して、自らが相手を仕掛けようと狙っているこ とを決して悟られないように、注意深く行動します。ですから、通常の調査な どに比べてさらに時間がかかるのです。

そこで、仕掛人のプレイでは、下準備の段階ではゲーム内時間の区切りを大 きく取ることにします。特に相手の身辺調査などの行動判定には、一回につき 数週間から一ヶ月くらい必要なことにするのです。

たとえば、仕掛けの期限が一年以内ということにして、下準備の調査におけ るゲーム内時間の設定を一ヶ月にしたとします。すると、下準備にかけられる 行動判定の回数は成功失敗を含めて12回しかないことになります。プレイ ヤーはその12回の判定をできる限り有効に、かつ、できるかぎり成功に導け るようにプレイすることが求められます。

GMは、行動判定の時に、プレイヤーの行動宣言によって難易度に修正をつ けるとよいでしょう。プレイヤーがより具体的で効果的な方法をもって調査し た場合にはプラスに、不用意な行動が目立つ場合にはマイナスの修正をつけま しょう。それをはじめにプレイヤー達に伝えておけば、仕掛人らしいプレイに なっていくものです。

GMは、プレイヤーに十分に考える時間を与えるべきです。また、PCが手 に入れやすい書物(武鑑など)の調査や、見に行けば分かることなどは、特に 判定の必要はありません。GMはすぐに情報を与えてしまってかまいません。 噂話を聞くような場合は、仕掛けを進める上での判定とは別に、一ヶ月に一回 行えるものとするのがいいと思います。

プレイヤーには、仕掛けの下準備を具体的にどのように進めると効果的であ るかを考える方に時間をかけさせ、そちらに集中するようにし向けるのです。 あまり不用意な行動判定をさせると注意が散漫になりがちです。一ヶ月に一回 の行動判定に大きな意味がある、と思わせることで、プレイに集中させること ができます。

また、プレイヤーが仕掛けには全く関係ないことを調査しようとしているな ら、GMから方向修正のための助言を与えてもかまわないでしょう。

一ヶ月の行動判定に成功したら、調査していた事柄について情報を与えま す。そして、次の月も同様に繰り返していく、というわけです。

以上をまとめると、一ヶ月の処理は以下のような流れになります。

今月開始の宣言
▼
行動判定の必要のない調査
▼
具体的な調査方法と行動指針の検討
▼
その月に行う調査内容の宣言
▼
その月の調査に関する行動判定
▼
判定の成否と情報伝達
▼
次の月に移行

このように、時間の流れをシミュレーションゲームの「ターン」や野球など の「イニング」のように区切ってやることで、プレイにメリハリが出るし、 ゲーム内時間では長くても、プレイ時間は短くしてやることができるのです。


とがり屋の時間設定

とがり屋は基本的に、仕掛人よりも短い期間で仕事をします。そのときは、 表の職業を完全に休んででも、刺しに集中することでしょう。また、いざ刺し を実行したときにも、計画の多少の狂いは戦闘力で修正可能ですから、仕掛人 ほど長い期間をかけて下準備はしません。

よって、とがり屋の期間設定のスケールは一週間を一区切りくらいにすれば よいでしょう。

一区切りの期間がかわっても、プレイするときの処理は、上記の流れと同様 に行います。

また、調査の期間を長く取りたい、とプレイヤーがいう場合には、GMは適 当な修正を加えて行動判定をさせればよいでしょう。この場合、行動判定の成 否に関係なく、指定した期間の分だけ時間が経過してしまいます。


季節感の演出

前述の、仕掛人の例のように、一年の調査を12回の行動判定で行ったとし ても、それではなかなか長い時間をかけて仕掛けを行った気分にはなりにくい でしょう。また、時間設定の長さがちがっても、同様の処理をしていては、プ レイヤーが全体の期間の長さの違いを感じ取ることは難しいでしょう。

そこで、季節感のある演出をしてみましょう。

最も簡単なのは、江戸の行事をプレイに盛り込んでみることです。これには 江戸市中案内増補版「江戸空間」が役に立つでしょう。

たとえば、五月の行動判定が終わった後で、GMがこのように演出します。 夜なのに人々の行き交う声が騒がしく、大川の方から「ドーン」という音が聞 こえてくる。どうやら両国の花火の音らしい。今日は「川開き」だ。

というふうに言えば、五月終わり、夏の始まりの演出になります。

知識のあるプレイヤーならば、「今日は川開きか……」と自分から言って くれるでしょう。上手いプレイヤーであれば「もう初夏か。涼しくなるまでに は、今の仕掛けを終わらせて、楽になりたいものよ……」と盛り上げてくれ るでしょう。

また、近所の知り合いが季節の食べ物を持ってきたり、物売りが売りに来 る、というのもいい演出です。

こうした季節感の演出は、長い期間をプレイヤーに対して感じさせるには必 須です。プレイヤーの方から演出してくるならば、なおいいでしょう。座布団 を与えるなどして、プレイを盛り上げるのも効果的です。

仕掛人のプレイだけでなく、「秘伝の声」をプレイするときには、季節感の 演出を積極的に行ってみて下さい。


調査以外での時間設定

調査・下準備の部分が、仕掛人やとがり屋のプレイでは、もっともゲーム内 時間が長期に渡ります。

ですから、他の部分、蔓との交渉や、仕掛けなどの実行、刺しの後のもみ消 し工作などは、普通のRPGと同じようにプレイすればよいでしょう。このよ うなパートは、RPG特有のリアルタイム性が十分に発揮される部分なので、 普通にプレイすればスリリングなプレイを味わうことができると思います。


おわりに

いかがでしょうか?

このように、ゲーム内時間の設定を行うことで、長期間のプレイもできます し、ゲーム中のメリハリもつきます。ぜひ試してみて下さい。

なお、今回の原稿に関しましては、「馬場秀和のマスターリング講座」に詳しく解説されていますので、そちらを参照して下さい。GMにとって非常に役に立つ文章なので、未読の方は一読をオススメいたします。


ヱブ管理人からの補足

上記は馬場講座で述べられている「タイムスケール管理」という概念の基礎となるものです。時間を区切ってプレイを行うことで、一つ一つの行動選択・判定の重みを増すというものです。タイムスケール管理においては「メリハリ」「緊張感」「プレイヤーが納得できる理由 (正しい理由、ではなく!)」といったことが重要になりますので、練習を積んで自由自在にタイムスケールを設定できるようになりましょう。


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