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第三章 とがり屋

人を殺す仕事をしながらも、仕掛人とは対極にいる暗殺者・とが り屋。「秘伝の声」基本ルールでの殺し屋を、本書「殺しの掟」オ リジナルの職業としてリニューアルし、詳細な解説を用意しまし た。「殺しはビジネス」と割り切るとがり屋もまた、殺しのプロ フェッショナルです。

本章では、このとがり屋の仕事について解説します。ピカレスク な魅力にあふれるとがり屋にぜひ挑戦してみて下さい。

とがり屋と仕掛人の違い

とがり屋と仕掛人は、人殺しをすることは共通でも、その本質は 違っています。

仕掛人は、「この世に生きていてはならぬ奴」を「誰にも悟られ ずに、目標の相手だけを殺す」という、特別な技術を持つ職人的な プロフェッショナルです。人一人を殺すための準備に十分な時間を かけ、万全の体制で仕掛けに望みます。

とがり屋にとって、人殺しは商売です。相手は誰でもかまいませ んし、勢力争いがらみの殺しであっても、一切気にとめません。と がり屋に必要なものは依頼を完遂するための卓越した戦闘能力と、 殺しを何とも思わない非情さです。必要とあれば、目的の人物以外 の者や目撃者がいれば、ためらいなく殺すことでしょう。

仕掛人ととがり屋は相容れない存在です。仕事の依頼はどちらも 暗黒街の顔役が持ってきますが、共同で仕事をするなどということ は全くあり得ないことです。もちろん、顔役の方でも仕事の性格を 考えて、仕掛人ととがり屋に割り振っています。

依頼

依頼は、仕掛人同様、蔓を通して行われます。本来の依頼人であ る起りは、とがり屋には知らされませんが、蔓自身が起りであるこ ともあります。

また、とがり屋がどこかの顔役に従属している場合には、顔役が 蔓ではなく、子分を代理として蔓に仕立てることもあります。フ リーランスのとがり屋・流浪の場合は、常に慎重に行動するため、 代理人が蔓になることが多くあります。

とがり屋の殺しの仕事のことを「刺し」といいます。依頼はま ず、報酬の額を伝えることから始まります。

とがり屋は、その金額のみで仕事の難しさを判断しなくてはなり ません。とがり屋が問えば、刺す相手の職業と性別くらいは答えて くれるかも知れません。しかし、刺す相手の名前は、仕事を受けた 後でないと、決して教えてはくれません。もちろん、起りについて は決して口を割ることはありません。

報酬と難易度について、以下に目安を挙げます。

10両相手としては小物。一週間とかからない。
30両普通の仕事の相場。町人や浪人者であることが多い。
50両豪商や武士など、狙う機会が少ない、あるいは手強い相手。
100両武術達者な武士や暗黒街の有力者など、狙うのが難しい相手。
それ以上地位の高い大物など。非常に難しい仕掛け。

報酬に折り合いが付けば、とがり屋は仕事を受けます。とがり屋 は自分の腕を良く心得ているものです。無理な仕事は決して受けよ うとはしません。また、蔓も、とがり屋がしくじれば、自分の身が 危うくなりますから、決して無理強いはしません。ただし、暗黒街 の顔役に従属しているとがり屋は、仕事に対する拒否権はありませ ん。とがり屋は顔役にとって、一つの駒に過ぎないのです。

仕事を受ければ、蔓はとがり屋に刺す相手を伝え、報酬の半金を 支度金として渡します。この時点でとがり屋は仕事を拒否できませ ん。相手がどんな大物であろうと、強者であろうと、女子供であろ うと、とがり屋は半金を受け取って、殺さなくてはなりません。

ただし、蔓は報酬に見合わない依頼はしません。もしそんなこと をたびたび続けていたら、蔓としての信頼は失われ、そのとがり屋 だけでなく、他のとがり屋から命を狙われてもおかしくないからで す。

次に、仕事の期限を区切られます。とがり屋の仕事は、仕掛人に 比べて期間は短くなっています。小物であれば一週間から二週間、 大物でも半年以上かけることはありません。

時には、何月何日までにと、具体的な日程で期限を区切られるこ ともあります。とがり屋は、仕事を受けてしまったからには、この 期限を守らなくてはなりません。

とがり屋には、起りや、殺す理由、期限の理由などは一切知らさ れません。とがり屋にとって、殺しは「金をもらう」仕事に過ぎま せんから、殺しに関わる事情などは全く関係ないのです。ただ、目 指す相手を確実に殺し、自分に火の粉が降りかからないようにす る。それがとがり屋の仕事なのです。

調査

とがり屋の仕事は、まず相手の動向を探るところから始まりま す。

とがり屋が特に重視するのは、刺す相手の外出スケジュールで す。定期的な外出スケジュールなら、相手を尾行すれば簡単にわか るでしょう。とがり屋の仕事はスピードが要求されますから、すべ てを綿密に調べるわけには行きません。またその必要もありません。 仕掛人のように目指す人物だけを殺す必要はないので、条件さえ揃 えば、相手のそばにいる人もかまわず殺します。ですから、仕掛人 よりも、チャンスは多いといえます。

また、綿密に調べるには、近所への聞き込みなどが不可欠です が、刺しまでの期間が短いだけに、とがり屋は足が付くのを恐れ て、極力聞き込みを避けます。もし聞き込みなどが必要になった ら、仲間が交代で調べたり、蔓に依頼して調査したりします。

次に重視するのは、相手の戦闘能力です。とがり屋は足が付きさ えしなければ、たとえ相手に気づかれたとしても、通常の戦闘に持 ち込むことができます。また、とがり屋は武術に長けた人物を殺す ことも多くなっています。仕掛人ほど綿密な調査をしないので、多 少の予定外の事態もフォローできる方法がとがり屋向けといえるで しょう。そのため、とがり屋は刀を使った手口を好みます。

ですが、相手が自分より強いのでは、返り討ちにあいかねませ ん。そこで、相手はどんな武術に長け、どんな武器を得意とするの かを調べ上げ、それに対してもっとも有利な武器と方法を準備しま す。

こうして、相手の行動を調べ上げ、殺しを実行する時と場所を決 定します。

下準備

相手を殺す時を決めたら、とがり屋は下準備にかかります。

とがり屋の下準備は、主に殺しに使う道具の準備です。現場に証 拠を残さないように、入念な準備を行います。

まずは武器です。武器は相手や襲撃場所に合わせて、もっとも有 利な物を選択します。そして、その武器を一から新調します。武器 には銘を入れません。ある場合には削ってしまいます。また、でき るだけ刀工の色が出ていない物を選ぶか、製作を発注するときにで きるだけ無個性になるように依頼します。

武器の質はできる限り良いものを求めます。刺しの確実性を上げ るために、より殺傷能力の高い質のものを必要とするからです。ま た、万一、相手に迎え撃たれたときに、質の悪い武器では相手に分 を与えてしまうかも知れません。ですから、武器の入手には金をか け、決して妥協しません。

武器はこの刺し一回だけに使われるものです。とがり屋は足が付 くのを恐れますから、武器は刺しの後で処分してしまいます。

次に、衣服などの道具を用意します。

衣服は、三種類用意する必要があります。まず、襲撃場所までの 移動に使用する服。これは目撃証言をあやふやにするための工作で す。たとえ現場を歩いていた不信人物として手配されても、この服 は刺しが終わった後には捨ててしまいますから、足が付きにくくな ります。そのための用心です。

次に、襲撃時の服。特に刀で刺しを行う場合は重要です。返り血 は必ずかかるので、そのための使い捨ての衣服です。できれば襲撃 場所に合わせて、暗い色のものを選びます。また、動きやすい服で あることが重要です。さらに、万一、相手やその付き人を取り逃し ても面体を知られないように覆面をつけます。

最後の一種類が、逃走用の服です。これはありふれた柄の物を用 意します。襲撃用の服は刺しの後、返り血で血塗れのはずです。そ れを脱いで捨てなくてはなりません。逃走経路に着替えを準備して おき、身が隠せるところですぐにこちらの服に着替えるのです。

襲撃に使用する服は、新品よりはむしろ古着を買い込むでしょ う。服を新調するとなると、服屋から足が付く恐れがありますし、 新しい服はこなれていないので、思うような動きがとれないかもし れません。江戸には古着屋が多くありましたから、古着の購入は現 代よりも容易です。襲撃現場とは離れている町の古着屋で購入すれ ば、足が付きにくくなるでしょう。

履き物にも気を配らなくてはなりません。特に当日の天気が雨 だったら、地面はぬかるんで、足を取られやすくなります。雨の日 であれば、相手は下駄を履くことが多いでしょうから、より俊敏に 動けて、地面の食いつきがいい履き物を用意すれば有利になりま す。

その他、こまごました小道具や照明などをこの時に用意します。 こうした道具類の調達や質に関して、とがり屋は慎重に慎重を重ね て準備します。行き過ぎるほどの慎重さが、彼らがとがり屋として 生き延びることを支えているのです。

襲撃場所には足を運び、何度も検討します。刺しに出る経路や、 刺しを行う場所、自分の逃走経路、相手の逃走経路、失敗した後の 戦闘領域、物音や声の聞こえ具合、襲撃予定時刻の人通りなど、綿 密に調べます。とがり屋は地の利を十分に生かして刺しを行うもの です。

とがり屋は襲撃のはじめから終了まで、すべてにおいて相手より も有利な位置を取らなくてはなりません。そのための下準備なので す。下準備こそが刺しの成否を決めると言っても過言ではないで しょう。

刺し

刺しの期日が来るまでに、とがり屋は下準備を終わらせます。

とがり屋の場合、刺しの日程を決めたら、その日に必ず実行する ようにします。 相手の状況が多少予定と違っていても、結果的に相手を殺し、自分 に足が付きさえしなければよいのです。日程の決定には、慎重さだ けでなく大胆な決断も要求されます。

刺しを行う当日、襲撃時間の前に、とがり屋は最後の準備を行い ます。それは、刺しに使用する道具を効率的に利用するために、進 入路や逃走経路に配置しておくことです。特に、刺しの後の着替え は、返り血に濡れたり、誤って傷を付けたりすれば怪しまれますか ら、ひとまとめにして隠しておきます。

襲撃場所付近へは、予定時間よりも早めに入ります。この時、あ る程度変装しておくべきです。まわりで誰が見ているかわかりませ ん。襲撃場所が、人通りの少ないところなら、そこで見かけた人の 服装の印象は強くなるものです。ですから、できれば表の職業とは ちがう職業の変装をするべきでしょう。

とがり屋にはグループで仕事をする場合もありますが、メンバー はできるだけバラバラに襲撃場所へと集まってきます。そして、刺 しが完了するまで、お互いに顔を合わせて話をしたりすることはあ りません。事前に細かく打ち合わせをして、それぞれの分担を確実 にこなすようにするのです。

襲撃場所にから少し離れたところに隠れ、襲撃用の服装に着替え ます。そして、相手がやってくるのを待ちます。この時のとがり屋 は、物陰に隠れてじっと周囲を伺っています。もし、予定の時刻に 相手が現れなくても、辛抱強く、じっと待つのです。

そして、相手が現れたら、刺しを実行に移します。

もし襲撃場所が道端なら、相手が行き過ぎるのを待ってから、背 後から襲うでしょう。 屋内が襲撃場所なら、相手が眠っていると ころを襲うのが常套手段です。

刺しは、素早く行われます。最初の一撃は、まずもっとも戦闘力 の高い者に対して行われます。相手に付き人がいれば、すべて始末 するのがとがり屋の掟ですから、まず自分が優位に立つために戦闘 力の高い者を倒しておくのです。最初の一撃の後は「対峙」の状態 になりますから、相手の戦闘力が自分よりも低いことが望ましいの です。

寝込みを襲った場合、まず殺すのは目標の相手からになります。 そばにいる人物が気が付いて起き上がり、自分の武器を手にするま でには、ある程度時間がかかります。ですから、その時間を利用し て、まず目標の人物を殺してしまうのがより確実なのです。

刺しには、より自分が優位に立てる状況を常に考えて行動するこ とが必要です。そのように行動するからこそ、とがり屋は多少の状 況の変化にも対応することができるのです。

後始末

その場にいる人物をとりあえずすべて倒したら、一人一人にきち んと止めを刺します。たとえ虫の息であっても、証拠を完全に消す ために、確実に死を与えるのです。

止めを刺した後、刺しに使った武器は回収し、その場をすばやく 去ります。止めを刺した死体から、金品を抜き取るような真似をす るのは三流です。強盗に見せかけようとしても、きっちりと止めを 刺している跡を見れば、プロの手口だと気づかれるからです。むし ろ、抜き取った金が何らかの形で、被害者と自分とを結びつけるか もしれません。ですから、一流のとがり屋なら、刺しを終えたら、 すぐにその場を去るのです。

とがり屋は、あらかじめ決めていた逃走経路を使って逃げます。

その途中で、物陰に隠れて、また着替えをしなくてはなりませ ん。襲撃用の服は、今や返り血を浴びてしまっているはずです。も し目撃者がいたら、怪しまれ、大きな声を出されることは確実で す。これから町中に戻ろうというのなら、もちろん血塗れ(ちまみれ)の格好な どしているわけにはいきません。

服を着替え、血を落としたとがり屋は、今度はすぐに使った道具 をすべて処分してしまいます。服は埋めるなり、燃やすなりして処 分します。特に血の付いた衣服は証拠が残らないように燃やしてし まうでしょう。

使用した武器は、おもりをつけて川に沈めたり、埋めたりしま す。武器が刀なら、鞘と刀身は別に埋めます。刀身がさび付けば、 後日発見されても証拠が残らないからです。

こうして、とがり屋は次の日までには、今回使ったすべての道具 を捨ててしまいます。

そして、何事もなかったかのように振る舞うのです。

報酬

刺しが終わってから数日して、再び蔓がとがり屋のもとを訪れま す。

蔓は報酬の残りの半金をとがり屋に渡します。もし、とがり屋が 調査や下準備に顔役の手を借りていたなら、手間賃の分が差し引か れていることでしょう。

報酬を受け取ったとがり屋は、それを使ってしまう場合がほとん どです。とがり屋稼業で長生きした人物は一握りもいません。刹那 的な楽しみを追うために、遊郭などで使ってしまいます。長旅に出 て、使い切ってしまう者のもいます。

とがり屋の中には、顔役から多大な借金を負っているとか、やむ にやまれぬ事情で大金が必要、という場合もあります。

また、流浪の場合には、生活資金が必要ですから、報酬はすべて 自分の保身と生活に費やされます。顔役に従属しているとがり屋と 違って、流浪は何をするにも金が必要ですから、報酬はいくらあっ ても困らないのです。

とがり屋のロールプレイ

とがり屋は仕掛人のように「悪党だけを殺す」ことを目的として いません。とがり屋にとって「殺しは商売」です。金のために殺し を請け負い、もらった大金で楽な生活を望んでいるのです。ですか ら、自分が死んでしまっては意味がないのです。

とがり屋の多くは、腕に覚えのある自信家です。しかし、殺しに 対する非情な態度や、下準備の徹底した慎重さ、相手よりも常に有 利な位置を取ろうとする狡猾さが一流のとがり屋にはあります。

そのあたりを踏まえてロールプレイをすれば、とがり屋にしっく りくることでしょう。

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