"Hiden no koe" on WWW - Rule Book

第二章 仕掛人

 本章では、仕掛人の仕事の過程を詳しく紹介します。仕掛人のネタをプレイする際 には、シナリオの大まかな流れはこの章で紹介するようになるでしょう。仕掛人の物 語のおもしろさはどこにあるのか、プレイに役立ててください。

依頼人

仕掛けは、依頼を仕掛人が受ける形ではじまります。というのも、仕掛人は誰しも 仕掛けることを快く思っていないので、自分から仕掛けようとする事はあり得ないか らです。仕掛けには、綿密な下調べと膨大な労力、精神力が必要になる大仕事なので す。

仕掛けの仕事には、二人の依頼人がいます。

一人は本来の意味の依頼人で、「起り(おこり)」と呼ばれます。殺しを依頼するに は、莫大な報酬が必要になるため、起りは商人や金持ちが多いようです。彼らは、殺 したい人物がいることで迷惑をかけられ、思い悩んだ果てに「殺すしかない」と思い 極めています。

しかし、彼らは人殺しをすることはできませし、体面を保たなくてはなりません。 なにより「殺したい相手と差し違えよう」などとは夢にも思わないのです。人殺しを して生き残ったとしても、その後の人生は死んだも同然でしょう。また、殺しを誰か に依頼したことを知られても、体面を保つことはできません。

殺しを依頼したことを人に知られず、自分とは関わりなく、誰が殺したともわから ないように殺すという、到底不可能としか思えないような殺人を、地元の顔役や香具 師の元締などに相談します。

もう一人の依頼人は蔓です。起りから殺しの依頼を受けた顔役や香具師の元締は、 その仕事を莫大な報酬と引き替えに引き受けます。仕事の難易度を見極めた顔役は、 蔓として、手持ちの仕掛人に仕事の依頼を持っていきます。もちろん、「この世に生 きていてはならない悪いやつ」を殺す仕事でなくてはなりません。仕掛人は そのような殺しの仕事でなくては引き受けません。

仕事の依頼

蔓は仕掛人に殺しの仕事を直接に依頼します。その場合、蔓が直々に仕掛人の住居 に出向く事もあれば、子分などを\ruby{連絡}{つなぎ}役にして、話が漏れず、ゆっくりと 会談出来る場所に呼び出して依頼する事もあります。長屋住いの仕掛人では、誰に話 を聞かれるかわからないので、後者の方法がとられ、小料理屋の離れなどが多く使わ れます。

依頼の時、蔓は仕掛人に報酬の金額のみ伝え、この仕事を受けるか否かを問いま す。仕掛人はその金額のみで仕事の難しさを判断しなくてはなりません。仕掛人が問 えば、仕掛ける相手の職業と性別くらいは答えてくれるかも知れません。しかし、仕 掛ける相手の名前は、仕事を受けた後でないと、決して教えてはくれません。もちろ ん、起りについては決して口を割ることはありません。

仕掛けの報酬と難易度について、以下に目安を挙げます。

10両仕掛ける相手としては小物。短期間で終わる。
30両普通の仕掛けの相場。町人が相手であることが多い。
50両豪商など、仕掛ける機会が少ない相手。
100両武士など、仕掛るのが難しい相手。
それ以上地位の高い大物など。非常に難しい仕掛け。

また、報酬の金額は、仕掛けが短期間に限定されている場合には上乗せされること もあります。仕掛けは基本的に一年近くもの長期に及ぶ場合が多く、一、二ヶ月でや るとなると、ものすごく難しくなってしまうのです。

依頼について、仕掛人と蔓の立場は対等です。仕掛けの仕事を受けるか、受けない かは仕掛人の自由です。蔓は仕掛人に仕事を強制する力はありません。仕掛人は蔓の 部下ではないのです。

いくら暗黒街の顔役だからといって、仕事を受けない仕掛人に手を下すことは出来 ません。そんな事実が仕掛人の間に伝わってしまったら、その蔓の持ってくる仕事 は、誰も受けてはくれないでしょう。また、「誰にも気づかれず、悟られず、殺した い奴だけを殺す」技を持つ者は希にしかいない、と言っていいでしょう。蔓になじみ のある仕掛人は、そう多くはありません。仕掛人の信用をなくしたり、傷物にしたり することはするべきではないのです。

仕掛人は、依頼の内容に関しては蔓を信じ切らなくてはなりません。それが蔓の私 欲のものではなく、「世のため人のためにならぬ奴」を仕掛けるものかどうかは、蔓 のみが知っていることです。また、蔓を裏切るわけにもいきません。仕掛けといって も人殺しである事実は変わりません。蔓は仕掛人の仕事を知っているわけですから、 それをばらされたりしたら仕掛人は一巻のおしまいでしょう。

このように、お互い微妙な立場で、依頼の会談は行われます。

仕掛人が仕事を引き受ける旨を伝えると、蔓は狙うべき相手の名前を言います。こ の時、相手がどこに住んでいるのか、どんな職業に就いているのかといった、基本的 な情報は蔓が教えてくれます。

そして、蔓が仕掛けまでのだいたいの期限を区切ります。だいたい半年から一年く らいが普通です。

そして、仕掛人は蔓から今回の報酬額の半分を前金として受け取ります。これは仕 掛けの準備に使う金ではありますが、十分すぎる以上に莫大な金額です。

調査

仕掛けはまず、殺す相手の下調べから始まります。

仕掛ける相手が住んでいるところから、仕事、趣味、嗜好、家族構成、交友関係、 外出スケジュール、近所の評判まで、あらゆることを丹念にこつこつと調べ上げま す。

もちろん、調査には長い時間が必要ですし、相当な手間がかかります。仕掛けにか かる時間のほとんどは、この調査に費やされるのです。時には仕掛ける相手の家に、 口実を作って出入りすることもあり得るでしょう。

しかし、調査を怠ると、仕掛けを確実に行うことはできません。仕掛けの失敗は、 自分と蔓と、起りの破滅を意味しますから、それこそ命がけなのです。しかも、仕掛 人はたいていの場合一人、多くても三人くらいの人数で仕掛けをしますから、どうし ても時間はかかってしまうのです。ですから、期限は半年から一年というのが普通で あり、短い期間の仕掛けは報酬金額も上がるのです。

では、調査は具体的にどのように行うのでしょうか。

以下に例を挙げてみましょう。

短い期間での仕掛けでは、そうした調査も十分には行えません。この場合、特に重 視するのは外出の機会です。誰にも悟られずに殺すには、相手が一人になったときが 一番ですから、外出して一人になったときに仕掛けるのがやりやすい、というわけで す。

しかし、大商人や上級武士ともなれば供の者を連れていますから、一人になる機会 はそうそうないでしょう。そういう場合は、うまく一人にする算段を考えたり、少な いチャンスを見分ける勘と度胸が必要になります。

このように、仕掛けのための調査は非常に重要です。仕掛けの正否は調査の時点で すでに決まっていると言って良いでしょう。

仕掛け

相手のことを調べ上げ、仕掛けの機会に目星をつけたら、いよいよ実行に移りま す。

仕掛けの方法は、仕掛人によって独自のスタイルがあり、種類も様々です。また、 相手を狙う状況によっても、仕掛けの方法は変わってきます。

このような仕掛けの方法のことを「ひきだし」といいます。ひきだしを多く持って いる仕掛人は、臨機応変に様々な状況で仕掛けることが出来るので、能力が高いとい えるでしょう。

仕掛人には、表の職業の技能を仕掛けに使う者も多くいます。原作の「仕掛人・藤 枝梅安」でも、主人公の梅安は鍼医師ですが、仕掛用の鍼で相手の脊髄を突いて仕掛 けます。武士の仕掛人なら、刀を使うのがもっとも簡単でしょう。

そうでなければ、仕掛人として何か特殊な技を身につけていたり、特殊な武器を使 いこなして仕掛けます。

仕掛人は戦闘に向いているとはいえません。仕掛けの技能は戦闘には使えません。 なぜなら、仕掛けとは「誰にも気づかれず、悟られず、目標の相手だけを確実に殺 す」技であり、計画的に、確実に行われるものだからです。武術系技能を持つ仕掛人 なら戦闘もできるでしょうが、そうでない仕掛人は、戦闘に関しては一般人と何ら変 わるところはなく、戦闘に向いているとは言えません。

ですから、武術系技能を身につけている相手(特に武士など)に仕掛けるときに は、特に慎重に事を運ばなくてはなりません。実戦を重ねた相手であれば、仕掛けの 直前で気づかれることさえあり得るでしょう。 仕掛人は十分に工夫しなくてはならないでしょう。

仕掛けは基本的に不意打ちです。誰にも悟られず、仕掛けられた本人にすら何が起 こったのかわからないまま殺すためには、もちろん不意打ちが一番なのです。仕掛け の技能とは、そのための技術です。おのずと普通の戦闘の不意打ちとは、微妙に違っ てきます。仕掛けの時には、\ref{sec:仕掛け戦闘}を使用すれば、より 再現性の高い仕掛けシーンのプレイが出来るでしょう。

仕掛けでは、足がつかないことが非常に重要です。誰が殺したのかわかってしまっ ては、仕掛人本人はもちろん、蔓や起りにも捜査の手が伸びかねないからです。もし 目撃者がいたなら、早急に始末しなくてはなりません。それが「世のため人のため」 にならない殺しであっても、です。目撃者を消すことは、仕掛人にとってまったく不 本意な殺しです。自分の不始末ですから、仕掛人は自己嫌悪にさいなまれることで しょう。

もちろん、相手を仕損じるなどもってのほかです。一回のチャンスを逃せば、相手 は命を狙われていることに気づいて警戒を強めますから、さらに仕掛けはしにくくな ります。また、相手が武術の心得のある相手なら、仕損じた時点で逆に仕掛人の命が 危うくなります。そうでなくても、相手が大声を出せば、人が集まってくるかも知れ ませんし、顔を見られたまま逃げ出せば、いつ自分の正体がばれるかわかりません。 事をもみ消そうとした蔓の刺客(この場合は「とがり屋」でしょう)が送られてくる かも知れません。

仕掛けは非常にシビアな世界です。万に一つの失敗も許されません。そのシビアさ こそが、人の命を奪うことの重さなのです。

報酬

蔓は、仕掛けが成功したことを独自に確認しています。手下の者を使うこともあり ますし、自分で直接、こっそりと見ていることもあります。

仕掛けが行われた数日後、残りの報酬を支払うために、蔓は仕掛人の元を訪れま す。

残金は依頼の時の前金と同じ額で、両方の合計が今回の依頼の報酬額です。蔓は、 本来の依頼人である起りから、仕掛人の報酬と同額の仲介料を受け取っています。

つまり、起りが用意しなくてはならない本来の依頼料は、仕掛人が受け取る報酬全 額の倍、ということになります。

また、蔓が仕掛人に対する気持ちとして、いくらか報酬にプラスすることもありま す。

仕掛けの後

一つの仕掛けが終わった後、仕掛人はしばらくの間、仕掛けの依頼を受けません。 仕掛けに足がつくことを恐れて、少し時間をおくのです。

また、仕掛けは長期間にわたって、細心の注意を払いつつ、人殺しのことばかり考 えている状態での生活です。仕掛人は体力、精神力ともに非常に消耗してしまいま す。ですから、続けて仕掛けを受けるのには無理があります。

仕掛人は何事もなかったかのように、日常の生活へと戻っていきます。大金が入っ たので、気ままな旅に出かけて、ほとぼり冷めるまでゆっくり休むのもいいでしょ う。

仕掛人が一回に手にする報酬の額は、一般の人々が一生手にすることがないほどの 莫大な額です。吉原などを豪遊すれば無くなってしまいますが、分不相応な金の使い 方は怪しまれ、御上に連絡が行って、あっという間に捕まってしまうでしょう。江戸 は分相応に生きなくてはならない街なのです。

ですから、大金を手にしたとしても使うことはできません。仕掛人の多くは、使わ ない金を貯め込んでおり、少しづつ分相応に贅沢をしてみたり、困った人にあげてし まったりしています。

仕掛人は金のために仕掛けをしているのではありません。あれだけ苦労して仕掛け て手に入れた大金も、使うことはできないのです。蔓との切っても切れないしがらみ と義理によって仕掛人は仕掛けを続けなくてはならないのです。

仕掛人のロールプレイ

仕掛人のプレイで重要なのは、命の重さを常に考えることです。

自分が仕掛ける相手は、本当に生きていては多くの人に迷惑がかかる奴なのかどう か。仕掛けに仕損じたときの自分の命、蔓や起りの命、仕掛ける相手とその家族の 命。

慎重に慎重を期し、あらゆる機会と可能性を伺い、すべてを仕掛けの一瞬のためだ けにかける。職人の技といっても、やっていることは人殺しです。悪党を仕掛けとい う悪の技によって亡き者にすることの矛盾を、仕掛人はいつも感じています。

そして、それにかけた努力と疲労は、使うことのできない大金によって報われる無 情。

それが感じられるようなプレイが、仕掛人のプレイとして望ましいといえるでしょ う。

inserted by FC2 system