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第七章 サンプルシナリオ

仕掛人でプレイする場合の、基本的なシナリオを掲載します。第三章の流れに沿っ たシナリオになっており、あまり味付けはしていません。GMはこのシナリオを自由 に膨らませてかまいません。

プレイの前に

このシナリオは1〜3人くらいでプレイするのが適当です。PCは全員「仕掛人」 となります。そのため、前述以上の人数でのプレイは困難でしょう。また、プレイ ヤーが第三章を読んでいれば、プレイはスムーズに進むでしょう。GMは、以上の点 に十分留意して下さい。

依頼

PCたちが表の職業に勤(いそ)しんでいるある日、PCのうちの一人に連絡がつけられま す。連絡の相手は、赤峰の太衛門という香具師の元締です。赤峰の太衛門からの連絡 であれば、仕掛けの依頼であることはすぐにわかります。

赤峰の太衛門は、大抵の場合、蔓として直接仕掛人のもとを訪れます。仕掛人の家 が長屋など、他人の耳があるような場所であれば、料理屋などに仕掛人を呼び出すこ とになります。

赤峰の太衛門は、小柄で、白い髭を蓄えた、一見好々爺の人物です。PCは何度も この老人と顔を合わせています。もしかすると、PCが仕掛人になったのは、この老 人がきっかけだったかも知れません。

赤峰の太衛門はいつものように人の良さそうな笑みを浮かべ、「先生、お久しぶり でございますなあ」と深々と頭を下げて挨拶します。しばらくの談笑の後、一息つい たところで、おもむろに仕掛けの話を切り出します。

元締が懐から和紙に包まれた一両小判の束を一つ取り出します。「切り餅」と呼ば れる小判の束ね方で、一つの切り餅に二十五両が包まれています。

PCは、この赤峰の元締には昔からの恩があります。また、この元締が持ってくる 仕掛けは、「この世に生きていてはならぬ奴」を仕掛けるという掟をはずしたことは ありません。

PCがお金に困っている場合は、この仕掛けを引き受けるでしょう。もし、困って いなくても、「赤峰の元締への義理は果たさねばなあ」とPCは感じているでしょ う。

PCが切り餅を受け取らなければ、元締は「どうしても先生でないと難しい仕掛け なんで」といって、もう一度懇願します。それでもPCが首を縦に振らないときに は、「それでは仕方がありません」といって、肩を落として帰っていきます。この場 合はここでシナリオは終了です。

PCが切り餅を受け取ると、それが依頼承諾の合図となります。元締は仕掛ける相 手の名を告げます。相手の名は刈谷孫治郎といい、侍だそうです。

PCが尋ねれば、元締は自分が知る最低限の情報をPCに答えます。

赤峰の元締は、「起りは誰なのか」という質問には、決して答えません。それを尋 ねたり答えたりすることは、仕掛人と蔓の掟に反することです。

仕掛けの期限については、特に区切られません。赤峰の元締は「できるだけ早いほ ど、泣く人は少なくなるんでございますよ」といいます。

調査

依頼を受けたPC以外にも、仕掛人のPCがいる場合には、この時点で協力を要請 するようにし向けるとよいでしょう。

まず、プレイヤーは刈谷の家を探ろうとするはずです。刈谷は江戸の郊外にある、 農家を改造した一軒家に住んでいます。周りには木立や林が点在しており、見張るの も難しくはありません。近所にいくつか農家がありますが、少し離れたところにあり ます。

刈谷の家の近所で聞き込みをすれば、次のような情報が得られます。

PCが張り込みをしていれば、刈谷の顔はすぐにわかります。そして、刈谷はほぼ 毎日のように、夕方になるとどこかへ出かけていきます。

PCが刈谷を尾行していくと、彼は近所にある大名の下屋敷か、ここからもほど近 い深川へと出かけていきます。

深川といえば、岡場所として有名なところです。また、大名の下屋敷の中間部屋 は、管理の目が届かないことをいいことに、屋敷に無関係な者までが出入りする賭場 になっています。

刈谷が出入りしている大名の下屋敷は、やはり嶋田家の持ち物です。刈谷の住処か らこの下屋敷までは歩いて三十分とかからないところにあるので、刈谷もよくここへ と足を運んでいます。

直接、嶋田家の下屋敷に行くと、ぎすぎすとした空気が肌に感じられ、あまり良い 賭場ではないようです。破落戸どもがたむろして、博打に興じています。彼らは 皆、賭場の常連として固まっているので、PCが不用意に賭けていると、そのうち身 ぐるみはがされてしまうでしょう。

この中でうち解けるためには、PCは当たり障り無く、ちょっと間抜けで憎めない ような新参者を演じるのがベストです。刈谷本人の前で聞き込みなどしたら、とたん に大騒ぎになるでしょう。本人がいなくても、PCがなんの工夫もなく聞き込みなど したら、そのうち刈谷本人に知られ、警戒されてしまうでしょう。

PCがこの賭場で上手く立ち回ることができたなら、以下のような情報が得られま す。

近所には別の大名家の下屋敷もあり、ここでも賭場が開かれています。そこは嶋田 家の賭場よりもいい雰囲気の賭場です。PCがそこで上手く立ち回れれば、新たな情 報を得ることができます。

深川まで刈谷をつけていくと、「ききょうや」という売春宿に入っていきます。深川 は、吉原と違って幕府の許しを得ていない遊郭(岡場所)ですが、かなりのにぎわい を見せています。

刈谷はききょうやの遊女・お松のところに、週一、二回通っています。それはPC が刈谷を見張っていれば、自ずとわかってくるでしょう。

ここで情報を得るためには、PC自身が客になってみるのが一番でしょう。ただ し、お松の客になって、直接刈谷のことを問いただすなどは、あまりにも危険です。 古株の遊女を客に取り、いろいろ聞いた後で心づけを渡して口止めするのがベストで しょう。

ここでは以下のような情報が手に入ります。

「起り」について

PCにはよほどのことがない限り、確実には知り得ない情報です。GMは注意して 下さい。

起りが蔓に仕掛けの依頼をしたのは、こんないきさつからです。

刈谷は故郷の城下にいた頃から、乱暴者で有名でした。剣の修行だけは真面目に やっていたようですが、それも威張り散らすための力を付けるための手段にしか過ぎ ませんでした。堂々たる体躯(たいく)も、見る者に恐れを抱かせるのに十分でした。

しかも、刈谷孫治郎の父・十蔵は、嶋田家の殿様が隠して生ませた妾腹の子だった のです。そのため、刈谷家の羽振りは周りの家来に比べて格段に良く、その威光を借 りて、わがもの顔でのし歩いていました。

しかしある日、刈谷孫治郎は城下の居酒屋で、酒の上での喧嘩がもとで同僚の武士 を惨殺してしまいました。藩の役人達は、すぐさまこの事件をもみ消そうとしまし た。しかし、人の口に戸が立てられるはずもありません。かといって、刈谷は表だっ て罰することのできない立場にあります。そんなことをすれば、たちまち藩の行く末 にまで発展するスキャンダルの火種となってしまうでしょう。

そこで、ほとぼりがさめるまで、刈谷を江戸に移し、金をたっぷりと与えて放任し ているのです。

しかし、嶋田家にとって、刈谷が邪魔者であることに変わりありません。しかも、 江戸に移って、刈谷は好き勝手に遊び回るため、江戸屋敷の経済を圧迫し始めていま す。

そこで、嶋田家の江戸家老・水上清衛門は、密かに刈谷を亡き者にするため、赤峰 の太衛門に相談を持ちかけた、というわけです。

仕掛け

刈谷を仕掛けるのは、賭場からの帰り道か、住処の寝込みを狙うのがよいでしょ う。

賭場からの帰り道なら、刈谷は酒を飲んだ後ですから、仕掛け易くなりますし、周 りに隠れる場所もあり、家の近くになれば人の往来も極端に少なくなるはずです。

寝込みを襲う場合や、住処での不意打ちを狙うなら、夜に行うのがよいでしょう。 木立に隠れて寝入ったところを狙うか、屋内に隠れて不意打ちを狙うか、といったと ころです。

深川に行った刈谷を狙うなら、ききょうやで狙うのがいいでしょう。しかし、その ためにはお松に気づかれず、自分が指名した遊女にも悟られない方法を考えねばなら ないので、いささか難しいでしょう。ききょうやからの帰りは、朝遅く日も高くなっ てからなので、仕掛けに適してるとはいえません。

GMは仕掛けの状況に合わせて、適当な修正を加えて下さい。

もし、PCが仕掛け損ねれば、次の瞬間に刈谷は刀を手にして対峙します。そう なっては、戦闘能力のない仕掛人に勝ち目はないでしょう。GMはそういった状況に ならぬよう、十分注意して、プレイヤーに万全を期した仕掛けを心がけるように促し て下さい。

その後

刈谷孫治郎を見事に仕掛ければ、赤峰の太衛門は、その二、三日後にPCの元を訪 れます。仕掛けの成功を確認したので、残りの報酬を持ってきた、とPCに告げま す。そして、残りの半金二十五両をPCに差し出します。

その後、PCは何もなかったかのように日常生活へと戻っていきます。仕掛けのせ いで滞っていた表の職業の仕事を片づけねばならないでしょうか。それとも、まと まったお金が手に入ったので、PC同士で連れ立って長旅にでも出て、心身の疲れを 取りに行くのかもしれません。

これでシナリオは終了です。GMは適当なCPを与えて下さい。

シナリオを変える

このシナリオ通りにプレイすると、基本的な仕掛人のパターンでプレイできます が、少し話を膨らませるように変更してみましょう。

刈谷の故郷、嶋田家の城下から、一人の青年がやってきます。彼は刈谷が城下で斬 り殺した同僚の息子です。彼は父親の敵討ちのために、刈谷を追って江戸にやってき ました。

刈谷を討つことを、嶋田家では止めようとしましたが、青年は武士としての道理を 通すため、はるばる江戸までやってきたのです。彼はこの件に関して、嶋田家の助力 を仰げません。しかも、刈谷は剣の腕が立ちます。刈谷が青年に討たれれば、嶋田家 としても万々歳ですが、返り討ちになればスキャンダルが露見しないとも限りませ ん。

赤峰の元締から刈谷の仕掛けを引き受けたPCは、遠からずこの青年と出会うこと になるでしょう。赤峰の元締は、起りから仕掛けを急ぐようにと催促されたことを PCに告げます。

さて、PCは青年のことをどう思うでしょうか? 仕掛けの行方は? 青年は刈谷 を討つことができるでしょうか\?

■NPCデータ

刈谷孫治郎

男 / 28歳 / 寿命 52歳 /武士 / 用心棒 / CP +50
余りCP: 4 / 座布団:1

経歴
藩士 (*1)(16.5年・66季)
破落戸(*2)(1.5年・6季)
能力値
腕力:1 / 敏捷:0 / 器用:0 / 知恵:-1 / 知覚:1
経験能力値
気合い:2 / 精神力:1 / 勘働き:1
特徴
体格:+5、癖(博打好き):-1
性格
癇癪:-5、自信過剰:-10、色好み:-5

(*1)「藩士」のデータは「御家人」のデータを流用しました。

(*2)刈谷は、江戸に出てきてから一年半になりますが、家人らしい仕事もせずに遊び歩き、剣術の修行もして いません。
そこで、「破落戸」のデータを使用することにしました。

特技
礼儀作法:1
読み書き:1
内職(提灯作り):1
嘘:1
喧嘩:2
賭博:1
技能
剣術(才能4):7 (990pt.)
武器斬り突き致死値間合いかわし受け流し
打刀3D+72D+763 3D+73D+83D+7
脇差2D+72D+763 4D+74D+84D+7
名前・渾名
刈谷孫治郎・刈谷の旦那
住居・町名
江戸郊外の農家
描写
ぬっと背の高い男。目つきが鋭く、いかつい顔つき。 よく癇癪を起こして、人に迷惑をかけている。
台詞
「無礼者が! この俺を誰だと思っておるか!」
「よし、もう一勝負だ。今日は勝つまで帰らぬぞ」
「ふん、屋敷の連中は俺を煙たがっているようだが、どうせ奴らは 俺をどうすることもできぬのさ」
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