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第二章 江戸時代における武器


御一新前の我が国では、西欧の武器とは異なった いくつかの独創的な武器が発達してきたことは、 御存じかと思います。

特に、たたら製鉄による高度な鍛造技術を背景にし、 武士の魂と呼ばれた打刀(うちがたな)は、 世界に類を見ない強力無比な殺傷能力を持つ武器でした。

同じく槍、薙刀なども、打刀と同じ鋭利で丈夫な刃を持つことで、 高い殺傷能力を誇っていましたし、 また、他国では類を見ないような多くのバリエーションを生んできました。

発射武器についても、 和弓は扱いの容易さよりも威力を重視したことから独特の発展をしてきましたし、 種子島からもたらされた火縄銃にしても、 江戸の太平において進化が止まるまでは、 やはり高度の鍛造技術を元に、より高い命中精度を持つ優れた武器となりました。

本章では、江戸時代における我が国の武器の代表的なものを取り上げ、 その解説と、「秘伝の声」ルールに基づいた数値データを示します。

なお、本書の記述と「秘伝の声」基本ルールの記述が異なっている場合は、 本書の記述を採用してください。

本章での武器データの書式

本章に掲載した武器データは、基本的に「秘伝の声」基本ルールに基づいています。 ただし、本書で追加された項目もいくつかありますので、 ここで各項目について説明します。

金額
購入するための代金。その武器の中で平均的な値段をあらわします。
間合い
その武器が最も有効に働く間合いを示します。 単位は 1 = 四半間 (約0.45m) です。
命中判定ダイス(斬り)/(突き)
武器の命中判定(と致死判定)を行うダイスの数を表します。 物によっては特別に +、- の修正値がついているものもあります。
回避判定ダイス
命中判定の対抗に用いる、かわし・流し・受けのしやすさを表すダイスの数を示します。
致死値
致死判定のときに用いる値です。 基本的には、致死値が大きい方が死ににくくなります。
対応技能
その武器を扱うのにふさわしい技能です。

刀剣

さきほども述べたように、日本における武器の代表的なものが日本刀です。 ここでは、日本刀をはじめとする刀剣、 すなわち刃がある近接戦用武器について紹介します。

太刀/野太刀
値段20両
間合い4
命中判定ダイス(斬り)/(突き)3D-1/2D-2
回避判定ダイス3D
致死値0
対応技能剣術

「秘伝の声」基本ルールにおいては、 「日本刀」と同じものとしていますが、実際は異なります。

太刀は、刃渡りが大体3尺(約90cm)以上の長い刀であり、 腰に佩く(はく)、つまり刃を下にして紐でつるすものです。 室町時代前期(戦国時代まで)は、武人が主に腰にしているものは太刀でした。 戦の際には、馬上にあって太刀を振り回し、腕力で敵をなぎ倒すのです。

太刀の拵え(こしらえ)が荒っぽくなり、 より実践的になったのが野太刀です。 本質的には太刀も野太刀も同じであり、 腕力の強い武士が長い刀を振り回し、甲冑の上から相手に打撃を与えたり、 下から切り上げて股間を狙ったりして用いました。 いわゆる介者剣術では、野太刀を用いるのが普通です。

造りについては、後述の打刀(うちがたな)とほぼ同じですので、 そちらで後述します。

打刀
値段15両
間合い3
命中判定ダイス(斬り)/(突き)3D/2D
回避判定ダイス3D
致死値1
対応技能剣術

打刀は、狭い意味での「刀」です。 江戸時代で最も一般的なもので、 「秘伝の声」基本ルールの「太刀」に当たるものです。

腰に差す、つまり刃を上にして帯に差す刀の中で、 定寸で刃渡りが2尺3寸(約66cm)程度のものを指します。 定寸というのは徳川幕府が江戸中期になって決めたものですから、 もっと長い打刀も有り得ました。 3尺を越える打刀と太刀の違いは、 拵えを除くと差すか佩くかの違いでしかありません。 日本刀の銘(造り手を表すサイン)は、腰にしたときに外側に来るようにしますので、 銘を見れば、打刀か太刀かが分かります。

刃を上にして腰に差すので、打刀は抜いて斬ることが一連の動作ででき、 馬に乗らない場合は太刀よりも優れています。

重さは大体300匁(1.125kg)ほどです。一見軽いと思われるかもしれませんが、 長い棒のほとんど端の方を持ち、それを振り回すわけですから、 かなりの力が必要です。 うっかりすると切っ先が流れて、自分のからだを傷つけることになります。

打刀をはじめとする日本刀は非常に切れ味が鋭く、非常に高い殺傷能力を誇ります。 例えば、映画「用心棒」で桑畑三十郎を演じた三船敏郎は決して大男でも、 若くもありませんが、 相手の胴を薙いだり、袈裟に落としたり、 腕を切り落としたりしています。 日本刀の武器としての優秀さがこれを可能にしているといえます。 しかし、日本刀の恐ろしさはそれだけではありません。

そのあまりにも鋭利な刃は、 ちょっと触れただけで指がぽろりと落ち、刀を握る指に力が入らなくなります。 額をほんの少しかすっただけで切り傷が生じ、目に血が入って視界が失われます。 どんな熟練した剣客でも、このようなアクシデントで命を落とす危険があるのです。

太刀、打刀、脇差、短刀といった日本刀全般については、 別項を立てて説明しましょう。

脇差
値段10両
間合い2
命中判定ダイス(斬り)/(突き)2D/2D
回避判定ダイス4D
致死値2
対応技能剣術

小太刀ともいいます。打刀がそのまま、長さが短くなったような刀です。 大体2尺そこそこ(約60cm)までの物をいうことが多いです。

武士は、打刀と脇差をセットで差すのが正式です。武士のことを「二本差」といったり、 さらにくだけて「りゃんこ」といったりするのはこのためです。 打刀と脇差を合わせて「大小」といいます。 このとき、打刀と脇差の拵えは合わせるのが普通です。

打刀の長さに合わせて脇差も長いものを差すこともあり、 例えば打刀の刃渡りが2尺6寸(約78cm)の場合は脇差を2尺2寸(約66cm)、と、 普通の打刀なみの長さを差すことも珍しくありません。 2尺を超えるような長い脇差を「大脇差」ということもあります。

打刀にくらべて脇差の所持に関しては規制が緩く、 旅人が護身用に持ったり(「道中差」といいます)、 医者が腰に差したりすることも許されました。 またやくざが腰に帯びるものも、大脇差が普通でした。

また、脇差はまたの名を小太刀とも称します。 小太刀は、手元に付け入ることさえ出来れば、 狭いところでも自在に使うことが出来ますし、 何といっても打刀に比べると軽くて扱いやすいため、武器としてはそこそこ優秀です。 小太刀は、薙刀と並んで江戸時代の武家の女性の 護身術としてよく学ばれていました。

匕首
値段2両
間合い1
命中判定ダイス(斬り)/(突き)1D/2D
回避判定ダイス1D
致死値4
対応技能剣術

「あいくち」と読み、「合口」とも書きます。 刃渡りがせいぜい7〜8寸(20〜24cm)の一種の短刀で、 「鎧通し」などと呼ばれることがあります。 ほとんど反りがないのが普通です。 鍔はありません。 柄と鞘の鯉口がぴったり「合う」ので「あいくち」とよぶ、という説もあります。

つまりはドスで、今も昔も破落戸(ごろつき)の主武器です。 剣術が堪能ならば、片手で握り、相手の剣をあしらうこともできるでしょう。 また、破落戸が喧嘩で人を刺すときには、両手でしっかりと握り、体の脇につけてわきを しっかり閉め、体ごとぶつかっていきます。

懐剣
値段5両
間合い1
命中判定ダイス(斬り)/(突き)1D/2D
回避判定ダイス1D
致死値3
対応技能剣術

武家の女性などが護身用に持つ短刀です。

刃渡り、形状はほとんど匕首と変わりません。 拵えが異なっている程度です。 致死値の違いは単純に価格帯の差と考えてください。

忍者刀
値段---
間合い2
命中判定ダイス(斬り)/(突き)2D/2D
回避判定ダイス3D
致死値3
対応技能剣術

その名の通り、忍者が使う刀です。 「忍び刀」とも言います。 基本的には日本刀の一種なのですが、忍びに適したさまざまな工夫がなされています。

刃渡りは1尺6寸(約50cm)と短く、ほとんど反りはありません。 正面から渡り合うよりなるべく戦いを避け、戦う場合には撹乱戦法を取る忍者にとって、 戦闘能力よりも動きやすさの方が大事なのです。

鍔は大きめで四角いものがついています。 刀を塀に立て掛け、鍔を踏み台にして登る、などの使われかたを想定しています。 残った刀は鞘についている紐を引っ張って回収します。

また、鞘は刀身に大して長く、先の方は空洞になっています。この中に目潰しを入れ、 逃走するときに役立てたりもします。

唐剣
値段20両
間合い3
命中判定ダイス(斬り)/(突き)2D/3D
回避判定ダイス2D
致死値2
対応技能唐剣術

読んで字の如し、中国系の剣です。

長さは日本刀と大して変わりませんが、 形状は大きく異なります。 まず直刀・両刃で、さらに軽くてよくしなります。 日本の剣術を知っていたからといって、唐剣を扱うことができるかというと ちょっと難しいと思われます。

日本刀のように凝った造りではないため、 日本刀のように「折れず曲がらず」とはいきませんが、 その軽さから、日本刀では考えられないようなスピーディな動きが可能です。

仕込杖
値段20両
間合い2
命中判定ダイス(斬り)/(突き)2D/2D
回避判定ダイス3D/2
致死値3
対応技能剣術

映画「座頭市」で有名な武器です。 見た目はただの杖ですが、実は中に刀を隠してあるものです。

普通の刀に比べると、杖の中にしまうわけですから非常に細身で、なおかつ短めです。 したがって折れや曲がりに弱いのは確かです。 しかし、日本刀の特徴である鋭い切れ味はもちろん残っており、 十分すぎるほどの殺傷能力をもちます。

木刀・棒など

木刀や棒など、木製の武器は、 刀剣や槍などのように金属製の刃が付いていないため、 武器としての優秀さに劣ると考える人も多いでしょう。

しかし、それは真実の一面でしかありません。 木製の武器には「扱いが容易である」「手軽である」という、 他に代え難い特徴があるのです。 また、殺傷能力が低いことを逆手にとり、 武術の実戦練習には欠かすことの出来ない存在です。

ここでは、これらの木製武器を紹介します。

木刀
値段1分
間合い3
命中判定ダイス(斬り)/(突き)3D/2D
回避判定ダイス3D
致死値6
対応技能剣術

木刀は、打刀の代わりに剣術の稽古に使うものであり、 その形状、特に長さは、ほぼ打刀と同じです。 重さは材料によって異なるのですが、 竹刀よりは重く、本身の刀よりは若干軽いといったところです。 だいたい200匁(約0.75kg)程度と思って良いでしょう。

武器としてみると、本身の刀に比べれば刃がありませんし、 木ですから折れたり斬られたりする可能性もあります。 しかしながら、殺傷能力については十分であり、 頭蓋を思い切り殴りつけたり、胴を薙いだりすれば、 骨は折れ、相手は血の泡を吹いて倒れることでしょう。 むしろ、刀よりも軽く、刃筋の影響を受けにくいため、 扱いが容易なことを考えると、 実戦においては刀以上に有利なこともあるでしょう。

木刀は、様々な材質のものがありますが、 一般的には桜や樫などの固くて丈夫な木が用いられます。 これを自分が使いよいように削って自作するのが普通です。

竹刀
値段2朱
間合い4
命中判定ダイス(斬り)/(突き)3D/2D
回避判定ダイス3D
致死値8
対応技能剣術

いわゆる「シナイ」の最初は、新陰流々祖、 上泉伊勢守の「ひきはだ撓(しない)」であるとされています。 これは、竹の先端を細かく割って、皮で包んだものであり、 この皮が皺がよって、蟇蛙(ひきがえる)の肌のように見えるので、 ひきはだと呼ばれました。 また、名前の通りしないます。 そのため、本物の刀とはすこし感覚が違いますが、 強く叩かれても怪我をする怖れがない、非常に有効な稽古道具でした。

今のような、竹を八つ割りにして、それを四つ組み合わせて、 皮でまとめるという竹刀を考案したのは、直心影流の長沼国郷であると 言われています。 このシステムによって、打たれても危険がなく、 しかも本物の刀の感覚に近い稽古が可能になったのです。

竹刀の定寸は3尺8寸(約114cm)です。 刃に当たる部分が大体3尺程度で、 打刀(大体2尺3寸)に比べると長いので、 流派によってはもっと短い竹刀を用いる場合もあります。 例えば直心影流長沼派では、3尺2寸の短くて太い竹刀を用いていました。

もちろん流儀によって、また個人の好みによって、 竹刀の長さはいろいろとあります。 また、竹刀の値段はあくまでも目安であり、 竹刀を使う武芸者は、ふつうは自ら竹を加工して作っていました。

竹刀の殺傷能力は、その用途から言っても乏しいのですが、 他流試合に勝利するため、鉄棒を仕込むなどの細工をするものもいました。 これは一種のいんちきともいえますが、 そこまでしなくとも、使うべきものが使えば、 羽目板を突き抜き、肋(あばら)を折り、 脳しんとうを起こさせることもできるのです。

値段1分
間合い4
命中判定ダイス(斬り)/(突き)3D/2D
回避判定ダイス3D
致死値6
対応技能棒術

そのまま、木製の棒です。 棒術で用いる棒は大体長さ6尺(約1.8m)ほどの丸棒です。

長さとしては普通の打刀よりもはるかに長く、太さもそこそこですから、 威圧感が高い武器です。鎧武者をなぎ倒して無力化することも不可能ではありません。

反面、後述の杖(じょう)と比べれば重く、扱いにくいのが 欠点です。しかし、修練を積んで腕力をつければ大して問題にならないでしょう。

値段1分
間合い3
命中判定ダイス(斬り)/(突き)2D/2D
回避判定ダイス3D
致死値11
対応技能棒術

(じょう)は「秘伝の声」基本ルールでの「杖」とは異なります (こちらについては「つえ」で後述します)。 杖は長さが4尺(約1.2m)から5尺(約1.5m)の丸い棒で、 太さは大体8分(約2.4cm)程度のものです。 ちょうど、両腕を広げて両端を持つことができる長さです。

杖は、剣と同じように握って使うことができるのはもちろんですが、 槍のように片手を滑らし、片手で送り込んで鳩尾(みぞおち)を突く、 両端を握って攻撃を受ける、 杖の端と中ほどを握って、てこの原理で相手の攻撃を流す、 などの動作が変幻自在に出来ます。

また、 相手が刀を打ち込んでくるのに合わせてこちらからも打ち込めば、 棒の丸さによって刀が自然に流され、こちらの棒が相手の頭を打つことになります。 杖は、一見不利と思われる刀とも、十分闘える優秀な武器なのです。

ただし、その長さからリーチはかなり短く、 また鎧を着た相手にはほぼ無力であることには注意しなければなりません。

六角棒
値段1分
間合い4
命中判定ダイス(斬り)/(突き)3D/2D
回避判定ダイス3D
致死値5
対応技能棒術

断面が六角形になるように削った棒であり、 樫の木などの堅い木で作るのが普通です。 鉄の鋲(びょう)を打って殺傷能力を高めることもあります。

長さは「棒」と同じぐらい、重さはいろいろありますが、 武器として用いるものは木刀より少し重い程度と考えてよいでしょう。

武器として六角棒を見ると、 木刀と同じような特徴を持ちます。 つまり高い殺傷能力と扱いやすさを兼ね備えています。 木刀よりさらに刃筋を無視できるため、たくさんの相手と渡り合うのに適しています。

長柄の武器

木などでできた長い棒の先に、何らかの刃物などを付けたものをいいます。

長柄の武器の特徴は、何といってもそのリーチの長さです。 相手を圧倒するリーチは、長さや重さによる扱いづらさをおぎなってなお 余りある物があります。

長槍
値段15両
間合い10
命中判定ダイス(斬り)/(突き)(2D/2)/4D
回避判定ダイス1D
致死値-1
対応技能槍術

柄の長さが2間半(約4.5m)から3間半(約6.3m)と、 非常に長い槍のことです。戦国時代、足軽の主武器として用いられました。

槍の基本的な攻撃は「突き」です。 左手を前に、右手を後ろに大きく離して柄を持ち、 左手の握りをゆるめてちょうど管のようにして、右手で一気に突きます。 非常に直線的な動きですが、そのスピードとリーチは他の武器を寄せ付けません。 リーチの差を利用して相手をうまく牽制し続け、 ここぞというときに突くわけです。

もう一つ、長槍の使われかたとしては、集団戦で一列に並び、 敵の頭上から振り下ろすという方法があります。 5m前後の長さの、先に鉄のついた棒が何本も 振り下ろされるわけですから、 たとえ騎乗していたとしても叩き落とされてしまいます。 叩き落とされたら、今度は突かれる危険があるわけです。 集団戦では非常な力を発揮する武器です。

槍の欠点としては、穂先(刀の部分)以外は木製であるため、 穂先を落とされてしまうと戦力が大幅に減ずること、 また、突いた槍を引き戻すときに、どうしても隙が生じることです。

短槍
値段8両
間合い6
命中判定ダイス(斬り)/(突き)1D/3D
回避判定ダイス2D
致死値0
対応技能槍術

長槍よりもっと短い槍です。長さ10尺(約3m)程度の柄に、1尺(30cm)から2尺(60cm)程度の 穂(刃の金属部分)を付けたもので、重さは800匁(約3kg)ぐらいです。 槍の場合は根元を持つわけではないので、間合いは槍の長さよりもすこし短いのです。

「秘伝の声」基本ルールでは「片手で扱え、投げつけることも出来る」とありますが、 日本の槍術では片手槍、投槍といったものはあまり一般的ではないので、 短槍も両手で、長槍と同じように扱うものだと考えられます。 ただし、短槍は打ち下ろす使い方はあまりされません。 どちらかというと集団戦よりも個人戦向き、武将向きと言えるでしょう。

短槍は刀より間合い的に有利です。 基本的には長槍より柄が短いとはいえ、同じ利点・欠点を持ちます。 長槍ほど長さがないため短槍の方が扱いやすいため、 武術としての槍術では 短槍を用いることが普通です。

槍の穂先の形は、ごく普通のまっすぐなもの(素槍)、 相手の衣服や武器などを引っかけるための鍵が付いたもの(鍵槍)、 鎌がついたもの(鎌槍)、それが大きく十文字になったもの(十文字槍)などがあります。 また、槍を繰り出すスピードを増すために、左手で持つ部分を管にした 管槍(くだやり)というものがあります。

竹槍
値段2朱
間合い6
命中判定ダイス(斬り)/(突き)1D/3D
回避判定ダイス1D
致死値13
対応技能槍術

だいたい短槍と同じぐらいの長さに竹を切って作る即席の槍です。

根元は普通に断ち落とし、先端を斜めにします。 竹さえあれば誰でも作れます。 それなのに2朱とは?

竹槍は所詮竹ですから、本物の槍ほどの殺傷能力はありませんが、 竹という素材の特性上、軽くて扱いやすいという利点があります。

三ツ道具
値段---
間合い6
命中判定ダイス(斬り)/(突き)1D/3D
回避判定ダイス1D
致死値15
対応技能捕縛術

「三ツ道具(みつどうぐ)」とは、実は一つの武器の名前ではなく、 捕り物に使う三つの長柄武器の総称です。 どれも9尺(約270cm)程度の棒の先端に、 刀などで切り落とされないように、突起のたくさんついた金属をかぶせ、 先端に補器を付けたものです。 どれも、捕り物の際に、相手に致命傷を与えずに捕らえるためのものです。 もし武器をもって暴れていたとしても、三ツ道具さえあれば 安全に、しかも確実に相手を制圧することが出来ます。

「袖搦(そでがらみ)」は、 先端に鈎(かぎ)をたくさん付けたようなもので、 これで衣服を搦(から)め取ります。

「突棒(つくぼう)」は、 Tの字になるように先端に棒を渡したものです。 棒には鉄の針がたくさん突いており、 相手を押さえつけたときに動けないようになっています。

「刺叉(さすまた)」は、 U字型の金具を棒の先に付けたものです。 これで首を捕らえて引き倒したりして相手を制圧します。

薙刀
値段15両
間合い5
命中判定ダイス(斬り)/(突き)3D/(2D/2)
回避判定ダイス3D/2
致死値11
対応技能薙刀術

薙刀、あるいは長刀と書いて「なぎなた」と読みます。 6尺(約1.8m)ほどの棒の先に、 刃渡り1尺5寸(約45.5cm)ほどの反りの強い刃を付けた武器です。

薙刀は源平から南北朝期までは戦場における主力武器であり、 剛力をもって馬上で振り回すなどして使いました。 それが戦国時代になり、 馬上での一騎打ちから徒士(かち)での集団戦に 戦法がシフトしていくにつれて、薙刀は戦場での主役を槍や刀に渡し、 武士の婦人たちの護身用の武器として発展していきました。

しかし主役の座を明け渡したからといって、薙刀が他の武器に 劣っているわけではありません。

薙刀は字の通り「薙ぐ」使い方が主です。相手の足をなぎ払うのが有効な戦法です。 たいていの武術は足に対する攻撃の対処法を持っていないため、薙刀は脅威になります。

また、薙刀のもう一つ武器として優秀な点は、「遠心力」にあります。 長い棒の先に重い鉄製の刃をつけて薙ぐわけですから、 扱う人が非力でも、振りまわされる刃のスピードは相当なものになります。 特に馬上から振り回される薙刀は徒歩の人間から見ると恐ろしいものです。

しかしこれは欠点でもあります。 重心が手から遠いところにあるわけですから、繰り出した攻撃が 当たらなかったときには大きな隙ができてしまいます。 ここを巻き落とされてしまうとひとたまりもありません。 薙刀を用いるときにもっとも注意すべき点の一つです。

格闘用の武器

格闘用の武器は、基本的には素手戦闘を補強する役目を持ちます。 リーチはないに等しいですが、 格闘戦に長けた人間の戦闘力を増すことができるのです。

これらの武器を用いることで、 例えば刀剣を持つ人間と、互角以上の闘いをできるようになります。

十手
値段---
間合い1
命中判定ダイス(斬り)/(突き)1D/2D/2
回避判定ダイス4D
致死値12
対応技能柔術(捕縛術)

よく間違われますが「じって」と読むのが本当です。 十進法を「じっしんほう」と読むのが正しいのと同じですね。 捕物のための武器として有名です。

非常に単純に言えば、太さ5分(約1.5cm)の金属の丸棒に 鈎(かぎ)が付いているものです。 最も有名な町奉行所の十手にしても、 長さや材質、形状は身分(与力・同心・岡っ引)によって異なります。

与力のものと同心の巡回用のものが大体1尺(約30cm)強です。 岡っ引はもう少し長く、1尺2寸(約36cm)ほどのものを使っていました。 意外なのが同心が捕り物に出役するときで、 このときはなんと2尺(約60cm)もの長い十手を持っていきました。 こうなるともう立派な武器です。 時代劇で「御用だ、御用だ」のシーンのとき、 同心が普通の長さの十手を使うのは、厳密には誤りということになります。

材質は普通は鍛鉄(鋳物ではなく鍛えた鉄)ですが、 同心の巡回用の十手だけは真鍮(しんちゅう)でした。

与力と同心の十手は、手で握る部分に糸を巻いて滑りにくくなっており、 さらに房(ふさ)がついています。房の色は朱色です。 岡っ引のものには房はついていないので、一見本当に単なる鉄の棒です。

また、火付盗賊改メ方の十手は、与力・同心のものよりも 長さが平均的にもう少し長く、太いものを使っていました。 特徴的なのは、小さな鍔(つば)がついていることです。

基本的な使い方としては、 片手で握り、相手の刀を鈎を上手く使って払って手元に付け込み、 思い切り殴り付けるというものです。 刃などはついていませんが、太さ1.5cmの鉄の棒で頭などを殴ると、 うっかりすると殺しかねません。 そこで、たいていは腕や肩、背中などを殴って相手を無力化するように できていました。

特殊ルール
十手で「太刀」「打刀」「脇差」「木刀」による攻撃の「受け」に成功した場合、 さらに加えて、《柔術(捕縛術)》と相手の武器技能の対抗判定に勝利したならば、 相手の武器を折ることができます。

発射武器

発射武器とはすなわち、遠距離攻撃を行う武器です。

いくら日本刀や槍という接近戦武器が優れているといっても、 遠距離攻撃は間合いの面で圧倒的に有利です。 こちらの間合い外から突然飛んでくる弓矢。 悪人がこちらに突きつけて行動の自由を奪う短筒。 どれも恐ろしいまでに有効な武器です。

ここでは、これらの発射武器を紹介しましょう。

長弓
値段12両
間合い480
命中判定ダイス(斬り)/(突き)---/2D
回避判定ダイス---
致死値-1
対応技能弓術

見ての通り、長くて大きい弓です。 時代劇などで殿様が練習するシーンがときどき出てきます。 現在の競技弓道でも、長弓が用いられます。

長弓は、大体7尺5寸(約2.25m)ほどの長さを持つ、一種の合成弓(複数の材料を組み合わせて 弾力を持たせた弓)です。 有効射程は大体100〜130間(約180〜240m)程度、最大射程は250間(約450m)に及びます。 威力は、有効射程程度なら薄い鎧を貫通するのに十分なものです。

長弓に限らず、 和弓の面白いところは、西洋のアーチェリーのように弓の中心を使わず、 だいたい下から3分の1ほどのところで射ることです。 ちょっと考えれば分かりますが、このような射かたはバランスが取りにくく、難しくしています。 弓を巨大にした代償でしょうが、扱いの難しさをおぎなってあまりある威力を持ちます。

弓の射かたは、立って(歩いて)射る「歩射」と、騎乗して射る「騎射」があります。 騎射の例としては流鏑馬(やぶさめ)が有名です。

非常に優れた武器である長弓ですが、一つ重大な欠点があります。 それは大きすぎるため、戦時以外では使えないことです。 町中だったり、あるいは戦時でも隠密行動を取るときなどは、 長弓を持ち歩くことはできません。

半弓
値段4両
間合い120
命中判定ダイス(斬り)/(突き)---/3D
回避判定ダイス---
致死値0
対応技能弓術

長弓の半分ほどの大きさの弓です。 直感的にお分かりかと思いますが、長弓より威力が劣りますが、 扱いが容易で、隠密性に優れています。 といっても、当たれば致命傷であることは言うまでもありません。

猟師が使う弓はこの半弓であることが普通です。

火縄銃
値段120両
間合い120
命中判定ダイス(斬り)/(突き)---/1D
回避判定ダイス---
致死値-2
対応技能砲術

火縄銃は、別名を種子島ともいいます。 これは火縄銃の伝来の地が今の鹿児島県の種子島だったことに由来します。

火縄銃は、現在の銃と異なり、 撃鉄によって火薬を発火させるしくみがありません。 ではどうやっているかというと、特殊な薬品を染み込ませた縄に火を付け (火縄)、引き金を引くとこれが火薬に接触して発火し、弾丸を発射します。

火縄銃は「先込め式」と呼ばれるタイプの銃です。 これはすなわち、弾丸と火薬を銃の先から込めるタイプです。

火縄銃は日本古来の発射武器である弓をはるかに上回る破壊能力を持ちます。 大体有効射程は30間(約54m)程度と弓より短いですが、 さほど腕力がなくても、命中すれば比較的厚い鎧も貫通し、 致命的なダメージを与えることができます。 特に純国産の火縄銃は、日本の鍛造技術と加工技術の水準の高さから、 同じ方式の他の国の銃に比べて高い命中精度を誇りました。

しかし火縄銃は、数多くの欠点を持ちます。 火縄を使うことから雨に弱いこと、 先込めであるため弾丸の装填に時間がかかること、 また火薬が黒色火薬であり、発射すると煙が大量に出て目にしみるだけでなく、 相手にも居場所が分かってしまうこと、などです。

外国では火縄の代わりに火打ち石を使ったマスケット銃をはじめ、 さまざまな改良が加えられてきましたが、日本では鎖国に加えて長い間戦乱がなかったため、 世界一の性能の火縄銃を作る技術力がありながら、 新型銃の開発を行わず、世界から取り残されてしまったのです。

なお、火縄銃は弾を込めるのに6ターンの時間を必要とします。

短筒
値段100両
間合い40
命中判定ダイス(斬り)/(突き)---/1D
回避判定ダイス---
致死値0
対応技能砲術

一言で言えば小さな火縄銃です。 時代劇のクライマックスなどで、 ヒーローが悪徳商人などに短筒を突きつけられてピンチに陥る、というのは よくある状況です。

火縄銃に比べて威力は小さく、射程も短いですが、 扱いが非常に容易であることが特徴としてあげられます。 国産のものはほとんどなく、ほぼ抜け荷(密貿易)によってしか得られないのが 最大の欠点かもしれません。

なお、短筒は弾を込めるのに4ターンの時間を必要とします。

吹き矢
値段2分
間合い20
命中判定ダイス(斬り)/(突き)---}{3D
回避判定ダイス---
致死値2
対応技能なし

見ての通り、吹き矢です。 適当な長さの筒に小さな針状の矢をつめ、息を吹き込んで飛ばします。

矢それ自身には殺傷能力は全くありませんが、 毒を塗ったりすれば恐ろしい武器になりますし、 そうでなくても眼球をねらって射れば、相手の戦闘能力を大幅に奪うことができます。

また、小さくて手軽なため、 武器の持ち込みをし難い状況でも容易に持ち込めるのが魅力です。

この武器は購入するものではなく、自作がふさわしいでしょう。

手裏剣
値段100文
間合い30
命中判定ダイス(斬り)/(突き)(1D/3)/2D
回避判定ダイス1D
致死値2
対応技能手裏剣術

和製の投げナイフです。 「手の裏の剣」という字からも分かるとおり 非常に高い隠密性を持ち、そのため忍者が使う武器として知られています。

手裏剣の形というと忍者が使う星型のものが思い付きますが、 実際には手裏剣術の流派によってさまざまあります。 星型手裏剣はどちらかというと少数派で、 まさしく「投げナイフ」というのにふさわしい剣型のもの、 角柱の先を尖らせたようなものなどがあります。

剣型、柱型の手裏剣は、相手に当たるときに尖った方がむくように投げなくてはならないため、 多少コツがいりますが、熟練すると非常に深くまで刺さって、 大きなダメージを与えることができます。 反対に星型手裏剣は、回転させて投じればまず間違いなく刺さりますが、 その構造上深く刺さることはなく、また投げるときに風切音(ひゅっ、などという音)が して、相手に気づかれやすい欠点があります。

手裏剣で相手に致命傷を与えることはまずないでしょうが、 利き腕や目を攻撃すれば相手の戦闘能力を著しく損なうことができます。 また、吹き矢と同様、 毒を塗っておけば恐るべき殺傷能力を持つ武器となります。

武器でない武器

急に闘うはめになったとき、 もともと武器でないものを、武器として転用することを考えなければなりません。

ここでは、武器になりうる道具の中で代表的なものを挙げます。

つえ
値段1両
間合い3
命中判定ダイス(斬り)/(突き)2D/2D
回避判定ダイス3D
致死値9
対応技能棒術

先ほど説明した「杖」とは異なり、 こちらは歩行の補助として使う「つえ」です。

長さはさまざまです。 腰の高さ前後で、T字型になるように短い棒を渡してあり、寄りかかるようにして使うもの。 もっとずっと長くて、抱えるように体を支えるものなどがあります。

武器としては、大体武器としての棒と同様に使えばよいのです。 専門の武器ではありませんので強度や使いやすさは少し劣りますが、 棒という武器はもともとありふれた、手軽なものを武器に転用したものなのですから。

なた
値段1両
間合い1
命中判定ダイス(斬り)/(突き)1D/---
回避判定ダイス2D
致死値3
対応技能なし

木を割いたり、まきを割ったりする肉厚の刃物です。 形状は菜切り包丁の刃がうんと厚くなった感じです。

もともと武器ではありませんので、 刃の切れ味、武器としての使い勝手は、例えば匕首などに比べても劣ります。 しかし、その肉厚な刃を力いっぱい叩き込めば、骨ごと四肢を叩き切ることは 造作もないことでしょう。使いようによっては恐ろしい武器です。

木槌
値段1両
間合い2
命中判定ダイス(斬り)/(突き)1D/---
回避判定ダイス1D
致死値3
対応技能なし

大型の木槌です。「掛矢(かけや)」ともいいます。

武器というより、攻城戦で門を破壊したり(「忠臣蔵」の討ち入りの場面でも出てきます)、 土木工事でくいを打ち込んだり、火消しの際、 類焼を防ぐために周りの建物を壊したり、などで使われるものです。

といっても、3尺弱(80cm程度)の棒の先に 直径5〜6寸(約15〜18cm)、長さ8寸(約24cm)の頭部がついた巨大な木槌で 頭を殴られれば、ただではすまないでしょう。

もり
値段1両
間合い5
命中判定ダイス(斬り)/(突き)---/3D
回避判定ダイス1D
致死値2
対応技能なし

漁師が魚を取るのに用いる道具で、 長い棒の先に逆V字の鈎(かぎ)をたくさん付けたようなものです。 この鈎によって、一度刺さった魚が暴れても抜けないようになっています。

武器として使うならば、すこし短めの槍と同じように使うのが適当でしょう。 刃先の鋭さに欠けるため刺さりにくいですが、 一度体に深く食い込むと、鈎のために抜くことは難しく、 無理に引きぬくと甚大なダメージを受けることになります。

身体武器

鍛え上げた肉体は、非常に強力な武器となり得ます。 いつ何時でも闘えるようにするには、自分自身の体を鍛えておくことは重要です。

ここでは、身体武器の中でも一般的な「殴り」「蹴り」、 それと身体武器ではありませんが「投げ」について説明します。

殴り
値段---
間合い1
命中判定ダイス(斬り)/(突き)1D/(3D/2)
回避判定ダイス1D
致死値8
対応技能柔術

「男は拳(こぶし)で語るもの」です。

ヘビー級のボクサーのパンチは、クリーンヒット一発で 相手を気絶させることができます。制圧武器として非常に優秀だといえます。 グローブをしているわけではないので、死にいたらしめることも不可能ではないでしょう。

また、かならずしも鍛えられた拳でなくても、 殴られて倒れた際に打ち所が悪くて死んでしまうというケースもあります。 酔っ払いの喧嘩による死亡事故の死因はたいていこちらだそうです。

蹴り
値段---
間合い1
命中判定ダイス(斬り)/(突き)2D/2D
回避判定ダイス1D
致死値8
対応技能柔術

和服を着ていると多少困難ですが、 それでも日本古流の柔術や拳法には蹴りの技が存在します。

武道の中で蹴り主体のものといえばテコンドーがありますが、 テコンドーの蹴りを頭部にまともに食らうと死ぬこともあるそうです。 ローキックでも、例えばムエタイのローキックは、 格闘技経験者が力いっぱいバットで殴るよりずっと大きい威力を持ちます。 鍛えられていない人間の足など簡単にへし折ってしまうでしょう。

投げ
値段---
間合い1
命中判定ダイス(斬り)/(突き)2D/---
回避判定ダイス---
致死値特殊
対応技能柔術

柔道といえば、豪快な投げ技を思い浮かべる人も多いでしょう。 柔道の原形である柔術にも、もちろん投げは存在します。

投げというのは、ようは相手の体制を崩して、重心を中心に回転させる動作です。 典型的なのが足払いで、足を払うと同時に、相手の上体を払った方向と反対に倒し込んで、 相手の体を上下にひっくり返すように回転させ、倒します。 投げ技というのは、大なり小なりこのような動作を伴います。

ですから、投げ技による重心の移動というのは、さほど大きくありません。 派手に投げ飛ばされたようでも、実は重心は1mほどしか動いていなかったりもします。 人間を何mも投げ飛ばすことは、まったく不可能とは言いませんが、 まずは難しいと考えていいでしょう。

特殊ルール

「投げ」に対しての防御は「かわし」でなければなりません。

「投げ」が成功したならば、致死判定の代わりに「気絶判定」を行います。 これは致死値を 8 とした致死判定と同じように判定します。

気絶判定に成功したならば、相手は気絶します(もちろん戦闘不能状態になります)。

気絶判定に失敗しても、 相手は倒れた状態であり、非常に有利です。 相手が倒れ、自分が立っているときの攻撃ルールは、 「投げに関する特殊ルール」を参照して下さい。

日本刀について

日本刀こそ、我が国を代表する武器といえます。 あくまでも美しいフォルム、強力無比な殺傷能力。 まさに、世界でも一級品の武器といえましょう。

ここでは、太刀・打刀・脇差などの日本刀一般について、 その構造、扱いかた、手入れの方法などを簡単に説明します。

日本刀の構造

さて、日本刀の「優秀さ」とはなんでしょうか?

簡単に言ってしまえば、

という二つの相反する特徴を兼ね備えていることに尽きます。

鉄という金属は、純度が高いと硬いかわりにもろい硬鉄となり、 低いと変形に強いかわりに柔らかい軟鉄になります。 硬鉄で刃物を作ると切れ味は維持されますが折れやすく、 武器のように激しい使い方をされるものにはむきません。 かといって軟鉄では多少の力では折れませんが(曲がることはあります)、 すぐに切れ味が悪くなってしまいます。 では、日本刀ではどうやってこの矛盾を解決しているのでしょう。

正解は、図のように「軟鉄の芯を硬鉄で包む」のです。

芯を包む周りの部分を「皮鉄」といいます。 ここには玉鋼(たまはがね)といって、 たたら製鉄によって作られる中でもほんの少量しか得られない、 特に純度の高く硬い鉄を使います。 皮鉄は、刀になる前の鍛造の過程で、何度も叩いて不純物を叩き出され、 さらに刃に焼きを入れられて非常に硬くなります。 この部分の強靭さが、まさに日本刀の威力を支えているといえます。

芯に入れる軟鉄のことを「心鉄」といいます。 これは玉鋼以外の「包丁鉄」と呼ばれる鉄で作られます。 包丁鉄は不純物が多く柔らかいため、折れに強い素材です。

こうして、二重構造になった鉄の棒を叩いて、鍛えるとともに形を整え、日本刀にしていきます。 最終段階で、真っ赤に熱した刀をいっきに水中に入れて、「焼きを入れ」ます。 こうすることで、刀の強靭さはいっそう増すことになります。

日本刀の各部の名称

日本刀には古来から各部に名前がつけられています。 新しい刀を求めるとき、正しい刀の扱いかたを伝えるとき、これらの名称が意味を持ちます。 ここでは実用面から見た日本刀の各部の名称をご紹介しましょう。 美術品としてみる場合はまた違った名称が在りますが、それはここでは触れません。

拵えを除いた刀本体は、次の図のようになっています。

各部を簡単に説明しましょう。

切先(きっさき)
見ての通り、刀の先端部分です。 切っ先が尖っているため、突きという攻撃が可能になります。
物打ち
刀を使うとき、もっとも力が入りやすいところです。 ここに打ち当てるようにすると切れやすいとされています。
(しのぎ)
刀というのは先ほどの断面図でも分かるように側面に稜線がありますが、この稜線を指します。 「鎬を削る」という慣用句は、相手と刀を押し付け合って、鎬がごりごりと削られるような 激しい戦いを表します。
いわずと知れた、斬るための部分です。なお、この刃の模様のことを「刃紋」といい、 直すぐ、乱れ刃などと いった呼び方がされます。日本刀の美さが際立つところです。
「峰打ちじゃ、安心せい」の峰です。 普通の日本刀はブロードソードなどと違って 両もろではないので、峰では切れません。
(なかご)
「中心(なかご)」とも書きます。柄つかに収まる部分です。 刀の銘はここに入ります。
目釘穴
柄を固定するための「目釘」を通す穴です。 目釘穴の数は一つの刀と二つの刀がありますが、 柄の中で目釘が折れる可能性を考えると、二つの方がよいのは確かです。
鑢目(やすりめ)
茎が柄からぬけないようにヤスリで摩擦をつけているものです。

なお、日本刀にはこの図からも分かるとおり、反りが入っています。 これは、抜刀・納刀を容易にする働きがあります。

反りの大きさは時代・流派・日本刀の作者によっても異なりますが、 2尺3寸の刀で5分前後というのが普通だったようです。 ちなみに、刃長の「2尺3寸」というのは、刃の先端部から根元までの直線距離であるため、 反りが強い刀では、実際の刃長はもっと長くなります。

次に「拵え(こしらえ)」です。 拵えというのは、例えば鞘(さや)や柄(つか)のような刀装具を指します。 日本刀の代表的な拵えが太刀拵と打刀拵です。 剣術ではなじみが深い打刀拵を図で示します。

各部の説明は次の通りです。

(つば)
刀の鍔の効用は、親指を相手の攻撃から守ることにあります。 相手の刀を受けた際に、それが流れて手に落ちてくると、 親指の付け根を断たれて握る力が激減します。 こうなると戦闘能力が大幅に低下するため、鍔をつけてカバーするわけです。

実用面だけではなく、鍔は細工師の腕のふるいどころでもあります。 透かし彫り、金細工を駆使した鍔は、芸術的価値が高く、高価なものでした。

(さや)
刀を納める筒(先が閉じてある)です。 刀の形は、長さ、厚さ、反りなど一本一本異なりますから、 鞘はそれぞれの刀に合わせて作られます。 「元の鞘に納まる」という言葉の意味がなんとなくお分かりかと思います。

なお、鞘の口を「鯉口」といいます。 見た目が鯉が口を開けたときのように見えるからです。 「鯉口を切る」というのは、親指でつばを押し上げるなどして、 鞘からちょっと刀身を出すことをいいます。つまりはいつでも抜ける状態、 臨戦態勢に入ることです。

(こじり)
鞘の先端に付いている金具です。
小柄(こづか)
一言で言えばナイフです。 ナイフといってもアーミーナイフのように戦闘用ではなく、 物を削ったり、糸を切ったりするのに使うものです。 長さは大体6寸(約18cm)程度です。

時代小説でときおり、小柄を手裏剣代わりに投げつけるシーンが出てきますが、 実際問題、手裏剣のように投げつけるためにバランスを取ってある物ならともかく、 難しいことは予想されるでしょう。

(こうがい)
小柄とペアで刀の装身具として使われます。 もとは頭髪を整えたり、かゆいところをかいたりするための道具です。 長さは小柄と同じぐらいで、先に行くほど細くなっています。 先端は箸の先ほどです。
(つか)
刀の握りです。木製のもので、刀に目釘で固定します。 目釘は1本か2本ですが、2本の方が折れにくいので、実用上は優れています。

普通の刀は柄巻(つかまき)といって、 表面を皮でおおい、糸をきれいに巻きつけます。 実用的にいうと、柄巻は柄の滑り止めです。 その観点からいうと、糸巻きよりも、例えば鹿の皮などのほうが、 柄が血で濡れたときにも滑らず、また乾きも早く、優れています。

はばき
漢字では と書きます。 柄から刀身が抜けるのを防ぐためにつける金具のことです。

日本刀の扱いかた

腕力・体力によらずに日本刀の鋭利さを活かすには、 正しい扱いかたを知らなくてはなりません。 この「正しい扱いかた」の集大成が剣術ともいえます。 ここで、簡単に刀の扱いかたについて説明しましょう。

刀の構え

闘いにおけるさまざまな状況に対応できるように、 自然で動きやすい構えは重要です。 ここで、いくつかの有名な構えを紹介しましょう。

なお、たいていの構えでは、足は右と左の足がTの字になるように構えます(撞木足)。 これは現代剣道と異なるところです。

正眼
最も普通の構えです。手を前にすっと出し、 切っ先が大体相手の胸の高さになるように構えます。
上段
上に振りかぶった構えです。正眼をまっすぐ振りかぶったり、 または多少ひねりを加えたりします。
八双
バッティングスタイルに近い構えです。 体のサイドに刀を立てて構えます。 利き腕のこぶしが耳のあたりの高さになります。
下段
刃先を地面に向けて構える構えです。 動かしやすいように斜めを向くのが普通です。 ここから刷り上げて相手の面・小手をねらったり、 相手の攻撃を跳ね上げたりします。
脇構え
刀を脇に引いて、水平にした構えです。 切っ先は少し後ろの方をむきます。

刃筋を立てる

刀で相手に切り込む際には「刃筋を立てる」ことが必要になります。 これは、刃の平面にそって切り込んでいくことをいいます。 刃筋が立っていなければ、 刃が相手に当たっても滑ってしまい、十分な殺傷能力は得られないのです。

木刀による組太刀では、一連の動きは刃筋を考慮して決まっています。 竹刀中心の「韜袍稽古」でも、 正しい目を持った立会人であれば、 刃筋を立てた打撃でなければ一本とはしませんでした (刃筋が立っていない打撃を「平打ち」といいます)。 ただ一般的に、刃筋をそろえるには組太刀を学ぶほうがよい、とされています。

手の内を絞める

もう一つ、刀を振るに大切なことは「手の内を絞める」ことです。 普段は力を入れずにやわらかく刀を握り、 切り込む瞬間だけに、強く手を絞り込んで力を込めるのです。

手の内を絞めることで、 無駄な力が入ることはなく、 それでいて相手の皮肉に切り込んだときの刃筋のぶれもなく、 人間の胴であろうとも抵抗なく両断することができるのです。

日本刀による受け

日本刀は基本的に両手持ちの武器ですから、 攻撃とともに受けも行います (もっともこのためでしょうか、日本にはほとんど盾は発展しませんでしたが)。 このとき、刀を傷めないためには、 峰で相手の刀を跳ね上げるようにするのが最上です。 刃で受けると欠けてしまいますし、側面から受けると、 相手の打撃の強さによっては刀を折ってしまいます。

日本刀の手入れ

武器の手入れを欠かさないことは武人として当然のことです。 日本刀の優秀さを保つ、あるいは増すための手入れを紹介しましょう。

普段の手入れ

普段の手入れで最も重要なことは、刀を錆びさせないことです。 日本刀は鉄製ですので、当然そのままにしておくと錆びます。 錆びた刀は「赤鰯(あかいわし)」と言われて、 そのような刀を差すことは武士として恥とされます。

時代劇などでよく出てくるシーンで、 刀に何か粉のようなものをまぶしているところがあります。 これが「打ち粉を打つ」という作業です。 打ち粉とは、非常に細かい砥石の粒子で、 刀の表面をきれいにする働きがあります。

定期的に打ち粉を打って手入れしておけば、 刀をいつまでもきれいに保つことが出来ます。

長期保存の場合は、油を塗って保存用の白鞘(白木で作った鞘)に納めます。 油も長期間おくと変質して刀を傷めるため、 ときどき打ち粉を打って古い油を取り除き、また新しい油を塗らなくてはなりません。

闘いの前に

普段の手入れが完璧だったからといって、 そのままでは闘いに臨(のぞ)めません。

より切れ味を高めるために「寝刃(ねたば)を合わせる」ことが必要です。 刃の表面がきれいなままでは、 刃先が滑ってしまってうまく斬り込むことができません。 そこで、荒砥(粗い目の砥石)や木賊(とくさ)で刃をこすることで、 刃に適度なざらつきを付けることが大切なのです。 幕末、新選組では、門のところに竹の節をぬいて砂を詰めたものを立てておいて、 斬り込みに出かける前に刀を突っ込んで、寝刃を合わせる代わりとしたそうです。

何人もの人を斬ると、刃の表面に人の脂が付着し、 せっかくの寝刃が意味を失ってしまいます。 「一時に斬れるのはせいぜい5、6人」と言われる根拠はここです。 このため、間を置いて多数の人を斬らなければならない場合は、 小さな砥石を持っていき、脂を除いて寝刃を合わせ直すことも 考えなければなりません。

使った後には

人を斬った後、拭い(ぬぐい)をかけずに鞘に納めるのは論外です。 拭わずに納めると、当然、鞘も刀も非常に傷みます。 特に鞘はもう使い物にならないでしょう。 そこで懐紙で拭ったり、 あるいは血が目立たないように柿色に染めた 手ぬぐいで拭います。

単に拭っただけでは血曇りが残ります。 江戸時代の犯罪捜査で、刀改めをするのはこのためです。 血曇りは「普段の手入れ」で述べたような手入れをすることで取れます。

刃を拭い、血曇りを除いただけでは十分ではありません。 そのままでは柄つかに血が残り、 茎なかごから腐ってしまいます。無論、拵えも痛みます。 人を斬った後はなるべく早く目釘を外し、茎なかごをきれいに しておかなければなりません。

また、日本刀の刃の部分は非常に純度の高い、固いものであるため、 その反面もろいです。 そのため、人の骨を何人も切ったり、 着込み(きごみ)(鎖の入った綿入れ) や鎖帷子(くさりかたびら)に切り付けたり、 相手の刀を刃の部分で受けたりすると、刃が欠けてしまいます。 もうこうなったら研ぎに出すより仕方がありません。 無論、普段の手入れが悪くて錆びさせてしまった場合も研ぎに出します。

研ぎは、切れ味を保つために高い平面度を要求され、 またむやみに行うと心鉄が露出してしまうため、 きちんとした腕前を持つ研ぎ師に出さなければなりません。 何といっても砥がないことが、刀を長持ちさせるコツといえます。

次に刀が曲がった場合ですが、 鉄には弾力があるため、曲がった直後は鞘に入らない場合でも、 しばらく時間を置くと元に戻ることもあります。 それでも軽い曲がりが残るようなら、槌で叩いて元に戻すことになります。


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