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今回は、RPG を始めるにあたっての予備知識といいますか、そもそも RPG というのはなんなの? といった、形而上的なことをお話します。抽象論がお好きでない方は第2回をお待ちください (^^;)
まずは、お約束の質問から。
「RPG っていうのはなんでしょう?」
じつは結構難しい質問ですね。これにちゃんとした答えを出せる自信は私にはないので、割とまとまったものとして次のものを挙げておきます。
NIFTY-Serve FRPG のページから "What's RPG?"
……と、これだけじゃいくらなんでも無責任なので、私なりの答えをば。
RPG とは? という問いに対してよく見る答えの一つに「ルールのあるごっこ遊び」というものがあります。これは割と良いところをついていると思っています。
ごっこ遊び、というのは、仮面ライダーごっことかおままごととか、そう いうものです。ごっこ遊びは、遊び手が登場人物に成りきって遊ぶわけで すが、その進行は「お約束」だけに従います。仮面ライダーがショッカー に倒されることは決してありません。そこには「ゲーム」としての戦略性、 偶然性、技量差は存在しません。 その意味で、ごっこ遊びは遊びであってもゲームではないわけです。
一方、 RPG は Role Playing Game、つまり「役割 (仮面ライダー役、ショッカー役) 」を「演じる」ことによって進めるのですから、一種のごっこ遊びです。しかし重要な違いは RPG が「ゲームである」ことです。つまり、 RPG はごっこ遊びをゲームとして厳密化したもの、といえます。
RPG の進め方は第2回で後述しますが、 たとえば次のように進行していきます。
ただし太郎がゲームマスターで、 次郎と花子はプレイヤーです。 次郎は下っ引きの「三吉」という、花子は女中の「おえん」というプレイヤーキャラクターを、それぞれ受け持っています。個々の用語については今は分からなくてもかまいません。マスター (太郎):えっと、君たちが歩いていると、向こうのほうで男と女が罵り合っているような声がするよ。女のほうは君たちの聞いたことのある声だ。----(1)
次郎:聞いたことのある声? 誰だか分かるかな?---(2)
マスター:じゃあ、〈知覚〉で判定してみて。怒鳴ってて分かり難いから、目標値は11ね。
次郎:次郎はダイスを2個振った。結果は7、三吉の〈知覚〉1 と加えて7、11には足りない。 うーん、わかんないみたいだ。---(3)
花子:じゃあ、あたしはそっちのほうにいくわ。---(2)
次郎:あ、俺も。---(2)
マスター:野次馬をかき分けて前に出ると、武士が町家の女に向かって喚いているよ。「貴様とぶつかった後に懐中を改めたらなくなっておったのだ。貴様が盗ったに相違ないわ!」女は言い返すよ。「じゃあなにかい、お武家さんは、あたしがここで帯でも解かなきゃ信用しないってのかい?」女は君たちとおなじ長屋にこのあいだ越してきた、おきみって色年増だ。---(1)
花子:おきみさんって巾着切りするような人なの?
マスター:さあ、それは分からないな。おっと、武士のほうが本気で怒り出したよ。「ぶ、武士を愚弄するかっ! ええい、そこまで言うなら脱いでみせい! さもなくば叩き斬ってくれるわ!」ギラリと刀を抜くよ。
花子:「ちょっと三吉さん、なんとかならないの?」---(2)
次郎:うーん、放ってはおけないなぁ。「お武家さま、お待ちになってくだせえ」と割って入るよ。---(2)
マスター:それじゃあねぇ……。このように、もっぱら会話で進行していきます。基本的には、
という感じです。このとき、行動宣言はプレイヤーの操っているキャラクターの視点で行います。 つまり、キャラクターがシナリオ上や世界の上で果たすべき「役割」を考え、それに基づいて行動するわけです。 これを 「ロールプレイ」と称しています。
- 用意されたシナリオに基づいて、ゲームマスターが状況を説明し (1)、
- 個々の状況説明に対して各プレイヤーが自分の受け持つキャラクターの行動宣言を行い (2)、
- 必要ならば行動宣言を行動判定によって解決し (3)、
- ゲームシステム/シナリオ/個人の目的を達成する
ただ、ロールプレイに明確なルールがなければ、それはたんなるごっこ遊 びにすぎません。 RPG がただ楽しいごっこ遊びではなく、大人の楽しむ に足るゲームとなり得ているのは、
からなのです。
- 行動宣言の選択肢が世界背景・キャラクター設定によって制約される(*1)
- 宣言された行動が可能かどうかが行動判定によって制約される
厳格な制約条件 (= ルール + 世界設定 + キャラクター設定) のある中で、 奔放な想像力を駆使してさまざまな選択肢を考え出し、それに対して的確 な状況判断を行うことで、目的への到達を目指す、というのが、 RPG の ゲームとしての本質であり、醍醐味です。(*2)
このように、RPG は「非常に高度な知的遊戯」なのです。
(*1) 世界背景による制限、というのは「江戸時代では肉食をすることは ほとんどなかった」とか「制度の上では男尊女卑であったが、実際 の生活では女性の方が立場が上だった」といった、世界における常 識 (ワールドロウ (world law) という奴ですね) から、プレイヤー キャラクター (後述) の行動や思考が制限されることです。
キャラクター設定による制限というのは、キャラクター (後述) が もつある種の設定によって、「おしゃべりなので秘密を守っている ことは困難だ」とか「旗本なので許可なく旅に出ることはできない」 のように行動・思考の制限が制限されることです。(*2) 制約条件を非常にゆるめ、 RPG の物語生成機構としての側面を強 調したスタイル、またそのようなスタイルを推奨しているかのよう なルールもありますが、少なくとも RPG が「ゲーム」であるとい う本来の定義からは外れていると言わざるを得ません。
もちろん、そのようなプレイスタイルで「遊ぶ」ことの楽しさは否 定しません。ただ、それはゲームではないというだけです。
とりあえず、以降の説明で困らない程度に用語の説明をしておきましょう。
- システム
RPG において「システム」と言った場合は、ルールシステムのことを差します。
また、ルールシステムを記述した本を指すこともあり、この場合は「ルールブック」 と称することもあります。ルールブックには簡単な世界設定を含みます。「秘伝の声」の場合は「本格時代劇RPG 秘伝の声 第3版」がそれにあたります。
何はともあれ、 RPG にはルールが必要なのは前述の通り。
- サプリメント
ルールブックの内容を補足するものです。背景世界の追加設定・解説、 プレイに便利な各種のデータ、場合によっては追加ルールなどを収録しています。
「秘伝の声」の場合は「増補版」と称しています。 たとえば「殺しの掟」や「八百八町捕物控」、がそれにあたります。
- シナリオ
シナリオは、場面設定、最終目的、障害、登場人物、などが設定された ものです。(*1) 「ゲームマスター」はシナリオに基づき、状況を「プ レイヤー」に説明し、プレイヤーが表明したリアクションに対応した処 理を進めます。
「秘伝の声」の場合はルールブックの83ページ「第十章 敵討ち」 がシナリオとなっています (プレイヤーの人は読まないで!)。
- ダイス
行動判定にランダム要素を取り入れるときに各種の乱数発生装置 (大袈裟 ^^;) が使われますが、サイコロを採用しているルールが多いです。サイコロを英語で言うと die (複数形 dice) というので、ダイスという言葉を使うことが多いです。
「秘伝の声」は6面体ダイス (つまり普通のサイコロ) を用いますが、他には4面、8面、10面、12面、20面、 100面などが使われます。
余談ですがダイスのほかに乱数発生装置として、トランプ、タロット、専用のカー ド、じゃんけん、コイントス、などを用いるゲームもあります。
- プレイヤー
ゲームマスター (後述) 以外の人のことです。(*3) 大抵、一人のプレイヤーにつき一人のキャラクター (これをプレイヤー キャラクター ( PC ) という) を操作してゲームを進行していきます。
「秘伝の声」の場合はマスター1人に対し、プレイヤーは2人から10人程度で行うのが普通です。
- ゲームマスター (GM)
ゲームの達人。もとい、ゲームの運営者でありプレイヤーの下僕 (笑) です。 シナリオに基づいてゲーム進行とルール運用を行う、特別なプレイヤー です。ゲームマスターは現在の状況をプレイヤーに説明し、プレイヤー がその状況に対して宣言した行動を、ルールに基づいて処理し、結果を伝えます。
- キャラクター
RPG における登場人物のことです。個々のルールによって異なる特性値を持っています。プレイヤーが担当することも、ゲームマスターが担当することもあります。
プレイヤーが担当するキャラクターのことを「プレイヤーキャラクター (PC)」と称します。「秘伝の声」を含めて、各プレイヤーが担当する PC は一人です。各プレイヤーは、それぞれが担当する PC の視点に立って、プレイを進めていきます。
プレイヤーキャラクター以外の登場人物 (キャラクター) のことを「ノンプレイヤーキャラクター (NPC)」と称します。ほとんどの場合、NPC はゲームマスターが担当します。
「秘伝の声」のキャラクターの例としては「秘伝の声」登場人物設定集を参考にしてください。またルールブック第1章の「勝新左衛門」も参考になるでしょう。
- キャラクターシート
キャラクター (前述) の情報を記録するものです。 大抵は1枚か2枚ほどの紙です。
ルールシステムによって書式が決まっており、コピーを取って使います。 「秘伝の声」の場合は「個人設定用紙」と呼びます。ルールブックの巻 末にもありますし、本ページから PDF 版 を取得して印刷してもお使いになれます。
プレイヤーキャラクター (PC) はもちろん、マスターが操るキャラクター、いわゆるノンプレイヤーキャラクター (NPC) についてもキャラクターシートを書くときもあります。
(*1) 世の中には「アドリブマスター」と称して、最初の場面ぐらいしか 考えていないでプレイをスタートさせ、プレイヤーのリアクション でどんどん話を作っていく人もいますけど。
RPG の目的とはなんでしょう? これについては、馬場秀和さんが、 その名シリーズ「マスターリング講座」において、次のように分類できると明快に説いています。
- シナリオの目的
- キャラクターの目的
- プレイヤーの目的
1.はマスターが用意する「シナリオ」によって異なってきます。例えば 「代官の悪事を暴いて正義の鉄槌を下す」かも知れませんし、「女郎に叩 き売られた幼なじみを無事に足抜けさせる」かも知れません。
シナリオの最初のうちから分かっていることもありますし、暗示にとどま っている場合も、また話が進むにしたがって分かってくることもあります。2.は、キャラクターが個々にもっている目的です。その目的は、1.と 一致するとは限りません。商売で大もうけするのが目的な人も、剣の達人 の道を目指す人も、仕官の道を探る人もいるでしょう。
3.は、 RPG をプレイするプレイヤーが、RPG を通して何を楽しみたいか、ということです。個々の RPG システムで、どのような嗜好を持つプレイヤーを対象にするかは異なります。
「秘伝の声」はこのレベルの目標を明確に規定していませんが、強いて言えば「江戸の息吹を感じる」ことです。1から3は一致することもしないこともあります。では、どれを最も 優先すべきでしょうか? もちろん1から3をすべて満たすのが好ましいのですが、あえて言うなら3、でしょう。
そのために、1、2の目的から見れば考えられない行動を、プレイヤーは PC に取らせることがありえます。
例えば「秘伝の声」で小泉八雲ばりの「怪談」をプレイするとき、 「恐いもの見たさ」ということで自ら危険な、 すなわちより恐怖を楽しめる状況に身を置く、というようにです。結局、 RPG のすべての行動は、プレイしているマスターとプレイヤーの楽しみのためにあるのです。そこのところを間違えないようにしましょう。