「火盗改メ」特選 RPG

その1 RuneQuest

Chaosium / Avalon Hill

今回は、たぶん世界設定の細かさ、壮大さでは1,2を争う RPG である「ルーンクエスト」をご紹介します。


成り立ち

RuneQuest (ルーンクエスト、RQ) は、世界最初の RPG である「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ (Dungeons & Dragons)」が発売されて程ない1978年、ケイオシアム(Chaosium)社から発売されたファンタジーRPGです。

ケイオシアム社は、社長のグレッグ・スタフォード (Greg Stafford) が考え出したファンタジー世界「グローランサ」 (Glorantha) を舞台にしたゲームを発売するためにグレッグが作った会社で、「白い熊と赤い月」、現在は「ドラゴン・パス」と呼ばれているシミュレーションゲームを出していました。多分 D&D の話を聞いて、グローランサの再現にはシミュレーションよりも RPG の方が優れていると思ったのでしょう。

後には「ドラゴン・パス」と共に、シミュレーションゲームの老舗アバロンヒル (Avalon Hill) に買い取られ、第3版はアバロンヒルから発売されています。
日本ではホビージャパンがこのアバロンヒル版 (第3版) を翻訳して出版しています。ただし現在は絶版であり、サプリメントの翻訳もストップしています。

なお、昨年 ('97年末) にケイオシアムとアバロンヒルの新たな契約により、「グローランサ」の権利はケイオシアムが、RPGシステム「ルーンクエスト」の権利はアバロンヒルが、それぞれ持つことになりました。したがって今後、ルーンクエストではグローランサという世界を遊ぶことはできなくなるわけです。残念ですがしかたがありません。


グローランサの魅力

成り立ちからも分かるように、ルーンクエストの魅力の大部分は、グローランサという世界の魅力から来ています。

グローランサの魅力は、「文化人類学RPG」といわれるほどの、とにかく膨大なデータ量から感じられる実在感です。神話、歴史、文化、風俗、風土など、縦横にわたって設定がされています。

普通の人は「グローランサ:ジェラーテナ大陸データ集」「グローランサの神々」といったサプリメントを見るだけで、その膨大な情報量に圧倒されると思います。もちろんこれら二つはグローランサについてのサプリメントとしても (翻訳されているものに限っても) 一部にしか過ぎません。

ルーンクエストのサプリメントとしてではなくグレッグ・スタフォードらが書き、ケイオシアム(の子会社ウィザーズ・アティック(Wizard's Attic)) から出版されたグローランサに関してのフィクション、公式ではないですがケイオシアムのライター陣が雑誌に寄稿した、準公式といえる記事まで含めるとその量は計り知れないものになります。

余談ですが、千葉県船橋市・JR船橋駅前のデパート内にある某書店の「宗教・神話」のコーナーに、上記のようなグレッグ作のフィクション「グローランサ年代史」が置いてあって驚いたことがあります。

多分、ほとんど一人で構築されたファンタジー世界としては、あの J. R. R. トールキンの「中つ国」の設定に匹敵するかそれ以上の情報量を持っているといえるかもしれません。

なにしろ、地域、宗派、そして種族それぞれに、多種多様な神話・伝説が存在します。無論、相互に矛盾したり、なんだかわけのわからない記述があったりするのですが、それもまた逆にホンモノらしいですね。我々の世界でも、実際に神話を調査した本などを読むと、相互に矛盾するようなさまざまな派生系がたくさん存在するのです。まさに、量が質に転化したといえるのではないでしょうか。この多様性こそが「グローランサ」の最大の魅力といえるかもしれません。


グローランサは、地域にもよりますが、だいたい古代ギリシャ、ローマといった時代をモデルにした多神教の世界です。普通のファンタジー RPG が題材にしている世界よりも少々文化レベルが低いところがあります。今よりもはるかに危険で、冒険と驚異に満ちた世界です。

そしてグローランサを魅力的にしている最大の要素が「神」と「英雄」です。
グローランサの神と英雄は、おおむねギリシャ神話を参考にしているといえます。たとえば神々の王にして嵐神・オーランスは、ギリシャ神話のゼウスに非常に似ているといえます。ただ、多少北欧神話のオーディンも入っているようですが。

グローランサでは、ほとんどの人間が神の信仰集団である「カルト」に属します。カルトはグローランサに生きる人々の生活の一部であり、バックボーンなのです。みずからの信じる神と同じように生きることを目標に、神を崇め、時には頼り、人々は生活しているのです。 グローランサでは神々の神話が細かく描かれているので、「神と共に生きる」プレイがやりやすくなっています。これが RPG の舞台としてみたときのグローランサの面白さです。

そして、ゲームとして想定されている今現在は、「英雄戦争」という世界を二分し、神をも巻き込む戦争の直前となっています。数々の伝説の英雄と肩をならべる存在を目の当たりにできるかもしれませんし、ことによると PC たちもそういった存在になることができるかもしれません。なんという燃える設定でしょう!


緻密で見通しがよいルール

ルーンクエストの魅力は、グローランサだけではありません。シミュレーションライクな緻密で、それでいて見通しのよいルールも、またルーンクエストの魅力の一つです。ルーンクエストのルールシステムは、「ベーシックRPG」といわれており、同社の RPG「クトゥルフの呼び声」「エルリック!」といった作品にも採用されています。

基本システムは、100面体 (だいたい10面体を二つで代用します) を振って、自分の技能値以下の値が出れば成功、というものです。能力値を使用する場合には5倍して、やはり0〜100の間 (近く) になるようにして判定します。成功の確率がパーセントで表せるので、非常に見通しのよいシステムとなっています。

キャラクターメイキングは、プレイヤーキャラクターの経歴にしたがって、技能を獲得させていく方法を取っています。慣れるまでは煩雑な嫌いもありますが、キャラクターのそれまでの行きざまを考えるいい手がかりになって私は割と好きです。職業チャートが見にくい、などの編集上の問題点はあるとしても、です。


そして、ルーンクエストのルールでもっとも特徴的なのは戦闘ルールでしょう。

頭、腕 x 2、胸、胴、脚 x 2 の7個所に別々に設定される装甲値とヒットポイントが設定される「部位別ヒットポイント」、「キャラクター」ではなく個々の「行動」に順位付けを行う「ストライクランク」、そのほか疲労ポイント、さまざまな戦闘オプション、精密を極めるダメージのルールなど、枚挙に暇はありません。
多少、ルールヘビーに過ぎる嫌いはなくはないのですが (とくにゲームマスターの NPC 管理は大変です)、シミュレーションライクで非常に面白いだけでなく、熱くて血生臭い戦闘を再現できるのです。

太股を貫いた槍を左手でがっしと握り、相手が慌てて放す隙に空いている右手で斬り倒す。槍を引き抜いて一息。出血がひどく倒れそうになるがなんとか持ちこたえた。

なんてことも (ルールの枠内で) 表現できてしまうのです。


「秘伝の声」に与えている影響

「秘伝の声」の増補版(サプリメント)展開は、やはり「知れば知るほど面白い」「読み物として面白いサプリメント」というルーンクエストの展開を意識しているといえなくもありません。我田引水気味ではありますが。

また、「秘伝の声」のキャラクターメイキング (個人設定) の経歴ルールは Traveller: The New Era を意識したものなのですが、思い返してみるとむしろルーンクエストに近いように思います。知らず識らずのうちに影響が出てしまったのかもしれませんね。


まとめ

ルーンクエストは、やはりグローランサを遊ぶためのRPGであるということは確実にいえるでしょう。そしてグローランサは、RPG のオフィシャルワールドとしては多分最高の実在感を持つものの一つだと断言できます。

もしあなたが神話文学や英雄叙事詩、文化人類学といったものが好きなら、ぜひルーンクエストをプレイしてください。プレイしなくても、グローランサという世界に触れてみてください。そこには膨大な情報に基づいた、まさに「生きた」世界が存在します。そのなかで自由に動いてみたい。また人を動かしてみたい。そう思うなら、ルーンクエストはあなたのためのRPGです。

システムは最初から全部使おうと思うと、特に戦闘ルールに関しては大変だと思います。ただ、各プレイヤーが、ストライクランクの計算をすらすらできるようになると、かなりテンポよく進めることができると思いますので頑張りましょう。かくいう私たちもまだまだなのですが。

残念ながら日本語版ルールはすでに絶版であり (「基本ルールブック」はまだ手に入るかもしれませんが、「上級ルールブック」はほぼ絶望的です)、入手するとしたら英語版になってしまうでしょう。ですが、クトゥルフなどのルールと基本は同じですし、なんとかなると思います。興味があるのであれば今のうちに GET しておきましょう。ケイオシアムから出るはずのグローランサRPGはまだまだ先のようですし。


参考ページ

推薦:おがさわらなるひこ '98. 6. 4


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