「火盗改メ」特選 RPG

その3 PARANOIA

WEST END GAMES


はじめに……

Paranoia とは、完全なるコンピュータ様が支配する完全な都市、Alpha Complex を舞台に繰り広げられるトラブルシューターたちの活躍を描いた RPG です。

トラブルシューターはミッションを受取り、コンピュータへの奉仕のためにそれを解決しようとします。ときとして commie で mutant な反逆者がトラブルシューターのチームに紛れ込み、ミッションを妨害しようと試みるとの噂がありますが、噂をすることは反逆です。

PC たちはトラブルシューターになるわけですが、それとともにミュータントであり、なおかつそれぞれ、秘密結社に属しています。PC はミッションと共に秘密結社からそれぞれ影のミッションを受け、それを遂行することにより結社内での尊敬を得ることができます。
もちろんいうまでもないことですが、ミュータントであり、秘密結社に属していることは、死に値する反逆です。

ということで、コンピュータ様は Paranoia をプレイすることであなたが幸福になることを願っています。幸福であることは市民の義務です。市民、あなたは幸福ですか?」

「すばらしい解説です、市民 おがさわ-R-NRH-1。あなたの奉仕に感謝します。

ところで市民、あなたの解説にはセキュリティ・クリアランスウルトラバイオレットの情報が含まれています。クリアランスレッドの市民がウルトラバイオレットの情報を知ることは反逆です。」

「あ、あの、ちょっとまってください。私はその情報はレッドだと聞いていたのです。きっと commie で mutant な反逆者が私に嘘の情報を教えたに違いありませ‥‥‥」

「ZapZapZap」<- レーザー発射音


Paranoia って?

PARANOIA とは、TORG や STAR WARS RPG などで (一部で) 有名であり、別のことでもちょっと有名になった (倒産しかけた) ゲーム会社 WEST END GAMES から発売されている RPG です。1984 年に第1版が、1987 年には第2版が発売されている、実は結構歴史のあるゲームなのです。そして1995 年には、多くの PARANOIA ファンの期待を集めて、現行版である第5版が登場したのです。

なおデザイナーの一人には、「言葉ではなく,デザインのみが,ゲームを語ってくれる」(コスティキャンのゲーム論; 原文はI Have No Words & I Must Design) で有名であり、また STAR WARS RPG (WEG) や TOON (SJG)、最近では Violence (Hogshead) などのユニークなゲームのデザイナーとして著名な Greg Costikyan 氏の名前があります。コスティキャンのゲーム論は、それを元にした馬場講座とともに RPG 論ではよく言及されるのですが、その著者のコスティキャンがこういった「切れた」ゲームをデザインしていたというのはある意味示唆的かもしれませんね。


コンピュータ様は完璧です。あなたはそれを疑うのですか?

PARANOIA の舞台である Alpha Complex は、コンピュータ様 (The Computer) によって支配されています。コンピュータ様は市民の幸福を願っており、従って市民たちはコンピュータ様のために奉仕しなければなりません。コンピュータを信じないこと、コンピュータに奉仕をしないことは反逆です。

というと、ジョージ・オーウェル「1984年」や、テリー・ギリアムの映画「未来世紀ブラジル」などで描かれるディストピアが頭に浮かぶかもしれません (蛇足ながら「未来世紀ブラジル」は Paranoia のモトネタに非常にグッドな映画だと私は思いますがそれはまあさておくとして)。が、Paranoia がこれらのどこか陰湿なディストピアと違っているのは、そう、コンピュータ様が Paranoia (偏執狂) であること、それに尽きるといえます。

どういうことなのでしょうか?

つまり、コンピュータ様は Alpha Complex の市民たちに心から奉仕しようと思っているのです。別に支配しようと考えているわけではなく。ただ、そのために反逆者の、そして Commie (Communist: 共産主義者) の存在が心底脅威だと考えているのです。それはまさに偏執狂的といえるまでに。

それだけでは、まだ普通のディストピアになってしまうでしょう。問題は、……。


ミッションは常に妨害され、反逆者は常に現れる

Paranoia のプレイヤーキャラクターは「トラブルシューター」と呼ばれる特別な市民です。トラブルシューターはコンピュータ様に奉仕するためにトラブルを見つけ、それを解決 (シュート) するのが仕事です。

もちろん、(コンピュータ様が考えるには) Alpha Complex は完璧な都市ですから、トラブルが起こるわけがありません。トラブルが起こるとしたら、それは反逆者の反逆行為に依るものなのです。ですからトラブルシューターの仕事というのは、反逆の兆候を察知してそれを阻止し、反逆者を処刑することに重きが置かれます。

ですが、前述の通り、Paranoia のプレイヤーキャラクターは全員、ミュータントで、なおかつ秘密結社に属しています。これは重大な反逆です。つまり、反逆者を暴くべきトラブルシューター自身が反逆者である、ということですね。

これは何を意味するのでしょうか? プレイヤーたちは反逆を悔いて自裁しなければならないのでしょうか?

いえいえ、そんなわけがありません。
いいですか、バレない反逆は反逆ではないのです。
PC たちはそれぞれ、自分たちが反逆者であることを知っているのですが、ほかの皆が反逆者であることを知りません。ですから、バレないように反逆をすれば OK なのです。

反逆がバレたとしたら? 簡単です。「死人に口なし」という言葉はご存じありませんか?
そうそう。目撃者をやっつけて、そいつに反逆の罪を押しつければよいのです。全然問題ありません。

え、何ですか? 「みんながみんなこんなことを考えてるとしたら、ミッションなんて成功しないんじゃないの?」
当然です。そもそも、Paranoia においてはミッションはほとんど成功しないのが普通だといえるでしょう。人によっては、秘密結社からミッションの妨害を指示されることだってあるのですから。
そのなかでいかにうまく立ち回って最後まで生き残るか、というのが Paranoia の PC たちの目的だといえるでしょうか。

……ですが、生き残ることばかり考えると、ただ殺伐としたプレイになってしまいます。
もう一つ忘れていただきたくないのはスラップスティックです。「どうせ死ぬなら人を笑わせて死ね」ってことですね。Paranoia では PC の命は空気のごとく軽いので、同じ死ぬなら笑わせな損です。

「といったって、死んじゃったら続きにも参加できないしなあ」とお思いですか? そうですよね。ということで、Paranoia には「ドタバタで PC 間戦闘もしょっちゅうだが、それでもゲームがちゃんと進行する」という仕掛けがちゃあんとしてあるのです。


六人の怒れるトラブルシューター

ちょっと話変わって Paranoia のキャラクター名というのはだいたいこんな形式でかかれます。

おがさわ - R - NRH - 1
(1) (2) (3) (4)
(1)キャラクターの名前。(1)〜(3)で駄洒落を形成するのがポイント。
(2)(後述する) セキュリティクリアランス。
(3)出身セクタ名。ゲーム的意味は全くないのでアルファベット3文字ならなんでも構わない。
(4)クローンナンバー。

さて、(1) と (3) はまあよくて、(2) はあとで説明しますが、(4) の「クローンナンバー」とはなんでしょうか?

Paranoia のプレイヤーキャラクターは、というか Alpha Complex の市民たちは全員クローン培養によって生まれています。そして、6体同じクローンを作り、もし不幸な事故があって市民が死んだとしても、次のクローンが続けてコンピュータ様に対して奉仕できるようになっているのです。

……そう、平たく言えば残機6ってやつですね。

ですからまあ、前述のように反逆がばれたりなにかチョンボして死んでしまったとしても、次のクローンはもっとうまくやってくれるでしょう。ということで安心してドタバタができるのです。


市民、その情報はあなたのセキュリティクリアランスでは公開されていません。

そして、Paranoia のもう一つ面白い仕掛けがこの「セキュリティクリアランス」。

セキュリティクリアランスは一種の階級制度であり、次の9段階があります。トラブルシューターである PC は、最初はセキュリティクリアランス Red から始まるのが普通です。

Infrared Red Orange Yellow Green Blue Indigo Violet Ultraviolet

Alpha Complex の生活は、セキュリティクリアランスによって厳しくコントロールされています。クリアランスの規定に反するのは当然反逆なのです。

まず、衣服、装備品、そして通る通路にいたるまで、セキュリティクリアランスによって決められています。Red の市民は赤い服を着なければなりませんし、Red レーザーガンは Blue アーマーを貫くことが絶対にできません。そしてもちろん、Red の市民が青や白の通路を歩くことはできないのです。

そして情報。セキュリティクリアランスが低い市民が、高い情報を知っていることは反逆です。そして面白いのは、ゲームマスターが持っている情報のほとんどが Ultraviolet であるということです。それは世界観などの情報はもちろん、判定ルールや戦闘ルールなども UV 情報です。Red の PC に開示されている情報はごくごくわずかなのです。

……不公平だ、と思いますか? いえいえ。そんなことはありませんとも。
PC は知っているのが反逆だ、とは確かに言いました。ですが、バレない反逆は反逆ではない。違いますか?

要は、ルールブックに書いてあるような情報、あるいは本来は知るはずのない情報を知っていたとしても (そういう情報にアクセスするすべはいくらでもあります。秘密結社経由で教えてもらうとか、ハイプログラマー (マスター) をだまして教えてもらうとか、「奉仕の会」の同人誌を読むとか)、それがバレなければよいのです。

あとはそうやって得た情報をどうやって使うかですね。生き残るために使うか、笑いをとるために使うか (^^)


おわりに

Paranoia という RPG は、いろいろな RPG のなかでもかなりの異色作であるといえるでしょう。パーティ内戦闘を推奨していること、残機があること、PC の持つ情報が強く制限されていること。ユニークといえばこれほどユニークな RPG もありません。

正直、ブラックユーモアとスラップスティックが受け入れられない人は、Paranoia をプレイしても全く楽しめないでしょう。ですが、もしこの紹介、あるいはようこそパラノイアへを読んで膝をうった方、ぜひ Paranoia をどこかで体験されてみてください。もう入手困難かもしれませんが……。

で、このゲームはたぶん「秘伝の声」には影響を与えていません。ですが、「火盗改メ」のメンバーはこういうゲームが非常に好きであり、普段から「市民 xxx」などと呼びかけているということだけはお断りしておきましょう。まあ、そういう奴らが作っている、ということですね。


参考ページ

推薦:おがさわらなるひこ '00. 1. 4


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