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第五章 追加ルール


「秘伝の声」の戦闘ルールは、 非常にシンプルかつ緊迫感のある優れたルールです。 しかし、こと親玉戦闘に関しては、実際の斬り合いにおけるさまざまな事象を 表現するには物足りなく思う方もいらっしゃるかもしれません。

本章では、 「秘伝の声」の戦闘をよりバラエティ豊かにするための追加ルールを中心に、 よりディープに武芸者を遊ぶための追加ルールを紹介します。 ゲームマスターは、自分の舞台にふさわしいルールを選択して導入してください。

浅手

命中判定がぎりぎり失敗(1だけ足りない)とき、 攻撃に使用した武器に刃があるなら、致死判定を行います。 致死判定が成功したなら、相手に浅手を与えたことになります。

浅手によって、軽い出血が起こって、次のような効果があります。

浅手を負った時点でさらに浅手を負ったときは、プラス効果はなく、 5ターンごとの気合い・精神力の減少が -1 ではなく -2, -3, ... となっていきます。

長柄武器の斬り落とし

槍や薙刀といった長柄武器に刀で対抗することは困難ですが、 一つよい方法があります。それが「斬り落とし」です。

長柄武器の柄は、たいてい木製です。そこで、刃の根元から少し下のあたりを 刀で斬って落とすのです。そうすれば長柄武器も単なる棒であり、 さして恐ろしい武器ではなくなります。

斬り落としをするには、攻撃パターンとして 「斬り落としをねらう」ことを宣言しなければなりません。 命中判定は、「斬り」の命中判定ダイスを用いて行います。

このときの間合いは (自分の武器間合い + 相手の武器間合い - 1) で なければなりません。 当然、「間合いを調節しながら攻撃」ならば、調節した結果がこの間合いで なければなりません。

対して防御側は、斬り落としを防ぐためには必ず「かわし」を選択しなければなりません。

攻撃が命中したならば、武器の穂先は斬り落とされます。 以後の武器データは「棒」を用いてください。ただし、 武器間合いは元の武器の間合いより -1 したものとなります。

なお、棒の使用技能としては《棒術》以外に、 《元の武器技能》}-2 を用いることもできます。

発射武器による防御

「秘伝の声」基本ルールでは、弓や銃では防御ができないことになっています。 しかし、弓を持っているときに不意に切りかかられたときなど、 とっさに発射武器で受けをしたいときもあるでしょう。 このためのルールを追加します。

防御に使える発射武器は「長弓」「半弓」「火縄銃」です。 これらは回避判定ダイスを2Dとして、 普通に回避を行うことができます。

ただし、回避が成功したにしろ失敗したにしろ、回避に使用した武器は壊れてしまいます。

防具の着用

我が国の剣術は基本的に素肌剣術で、鎧などを着けたりはしません。 しかし、戦国期は甲冑を着ての戦いは当然でしたし、 幕末にも、 斬り込みの際には不覚を取らないように着込み(きごみ)を つけることは、決して珍しくはありませんでした。 そこで、ここでは防具についてのルールをごく簡単に述べます。

このルールを用いて、剣道の試合を扱うこともできます。 防具は「鎖帷子」として扱ってください。

名称防御力価格
(斬り) (突き)
着込み 3 1 10両
鎖帷子 5 3 20両
甲冑 7 5 50両
南蛮鎧 10 7 100両

防具の種類

防具は次の4種類があります。

なお、本書では全身をおおう防具だけを対象にしています。 部位防具(鉢金など)については別途データを作成して下さい。

防具の効果

防具を付けていると、 相手の攻撃判定値のダイス目から、相手の攻撃が「斬り」のときには防御値(斬り)を、 相手の攻撃が「突き」のときには防御値(突き)を、それぞれ引くことができます。 致死判定で振るダイスからも同じ値を引きます。

倒れた相手に対する攻撃

ここでは、例えば「投げ」が決まったときや、 相手が戦闘中に転んだ場合(ルール上ではありませんが、GM裁量で起こりうるかもしれません) など、相手が地面に倒れた場合に攻撃するときのルールを追加します。

立っている側の選択肢

立っている側は、次の選択肢のなかから自由に一つを選ぶことができます。

倒れている側が起き上がるのを待つ

この場合は、特に判定は必要ありません。

倒れている相手に攻撃

倒れている相手に攻撃するには、ある程度リーチがある武器でなければなりません。 具体的には、第二章 武器および武器リストで挙げた「間合い」が 1 の武器では 攻撃できません。

この場合、通常の戦闘ルールにおいて、立っている側が一方的に先手を取ることができます。 さらに命中判定の際、倒れている側( = 防御側)は 防御パターンとして「かわし」しかとることができず、また回避判定値には -2 の修正がつきます。

攻撃が命中したならば、通常の方法で致死判定を行ってください。

攻撃が失敗したならば、〈敏捷〉で対抗判定を行います。 倒れている側が勝ったなら、 敵の攻撃をかいくぐって起き上がることに成功したことになります。

相手を固める

相手にのしかかって相手を固め、戦闘力を奪うことができます。

両者の腕力で対抗判定を行います。 このとき、投げた側も投げられた側も、《柔術》を持っていれば加えることができます。 以下の腕力対抗判定は、常に同じように行います。

腕力対抗判定に勝利した側は、次の中から一つ行動を取ることができます。

押さえつけて攻撃

相手を固め、押さえつけた状態で攻撃します。

まず、武器がすぐ使える状態になければ、 相手を押さえつけたまま武器を準備するために、その武器に応じた回数の腕力対抗判定を行います。
武器回数武器回数
殴り 0 脇差 2
匕首 1 打刀 3

腕力対抗判定の回数(相手を固められたかの判定は含みません)の目安は次の表の通りです。

一度でも攻撃側が失敗したならば、防御側は振りほどき、 二人とも立ち上がって通常の戦闘ターンに戻ります。

すべて攻撃側が勝利し、武器が準備できたら、通常どおり攻撃を行います。 ただし、防御側の取れる防御パターンは「かわし」だけで、 さらに回避判定値には -5 の修正が入ります。

攻撃が命中した場合、致死判定を行いますが、 このときも武器の致死値から -5 して判定します。

攻撃が失敗した場合は、再度、腕力対抗判定をしてください。 攻撃側が勝利したなら、もう一度攻撃を試みることができます。 防御側が勝利したなら、振りほどいて立ち上がり、通常の戦闘ターンに戻ります。

関節を極める

関節を極(き)めることで、相手を無力化することができます。

まず、極める部位を「右腕」「左腕」「右足」「左足」のなかから好きに決めてください。

極められる側が判定に使う能力値は、腕なら〈腕力〉、足なら〈敏捷〉です。

極める側の〈腕力〉と、極められる側の対応する能力値で、対抗判定を行います。 もちろん、両者とも《柔術》を加えることもできます。

極めている側が勝利したなら、 極められている側の対応する能力値から -1 します。 例えば「右腕」ならば〈腕力〉から1を引くわけです。 そして、そのまま極め続けることができます。 再び対抗判定をします。

このとき、対応する能力値がマイナスになっていれば、極めている部位は折れてしまいます。 無論、このときは戦闘不能になります。 注意すべきなのは、元々〈腕力〉や〈敏捷〉がマイナスのキャラクターでも、 一度は対抗判定ができることです。一度対抗判定に負ければ、 その時点で折れることになります。

極められている側が勝利したなら、 振りほどいて立ち上がることができます。 ただし、極められて減ってしまった〈腕力〉や〈敏捷〉は、 怪我の治療を受けるか、十分な期間が経つまで直りません。

絞め落とす

相手を絞め落とし、気絶に持ち込むことができます。

絞め落とすには、まずは腕力対抗判定を行います。 このとき、後述する〈精神力〉のマイナス分修正が、防御側のダイス目にも加わります。 攻撃側が勝てば、防御側の〈精神力〉から1を引き、 また絞め続けることができます。

防御側が勝てば、振りほどいて通常の戦闘ターンに戻ります。 ただし戦闘中は、マイナスされた〈精神力〉はそのままです。

他の戦闘系技能

ある武術のある流派を納めていても、他の武術に基づいた武器を使ったり、 あるいは新たな流儀を習得することには、なにも影響がないのでしょうか? それは実際問題、考えにくいことと思います。 そこで、次のようなルールを加えます。 なお、このルールを導入すると、基本ルールに比べてキャラクターが 強力になる可能性があるので注意してください。

他の戦闘系技能の使用

例えば、刀を持つ人間が棒を用いて闘ったり、 槍の達人が手裏剣についてどの程度のことを知っているかなどのを判定します。

この場合は、キャラクターが持っている戦闘系技能のレベルに適切な修正を加えて 表現します。修正は、右の図によって算出します。

この図で、「キャラクターの持つ技能」と「使用する技能」の両方から、左に向かってたどっていきます。 合流したところの「修正値」が、異なる技能を判定するのに必要な修正値です。 ただし、判定に用いる流派が異なる場合(ほとんどそうでしょう)は、 さらに修正値に +2 しなければなりません。

こうして得られた修正値を、キャラクターが保有する技能から引いて、 判定に用いることができます。 この修正によって得られたレベルを「仮レベル」といいます。

例: 《剣術(新陰流)》レベル8のキャラクターが、 直心影流の特徴的な攻め手を思いだそうとしています。 GMは、《剣術(直心影流)》の目標値10で振るように指示します。 図を見ると同じ《剣術》なので修正値は「〇」で、流派が異なるので、 仮レベルは 8 - (0 + 2) = 6 となります。
例: 《剣術》レベル7を持つキャラクターが、旅の途中にやくざに因縁をつけられ、 破落戸(ごろつき)に宿を囲まれてしまいます。 人を殺したくない彼は六角棒を用いることにしました。

彼は《棒術》を持っていないので、先の図を見て修正値を得ます。 《剣術》→《刀剣技能》→《短柄武器技能》、《棒術》→《短柄武器技能》で合流 しますので、ここの修正値を見ると「三」で、同流派でないので +2 すると、 《棒術》の仮レベルは 7 - (3 + 2) = 2 になります。

他の戦闘系技能の習得

他の技能/流派の習得は、次のような手順で行います。

まず、他の戦闘系技能の使用の方法で、仮レベルを算出します。 そして、「秘伝の声」基本ルールブック丙ノ七「技能成長表」(p.89)により、 対応する修行ポイントを求めます。 この値を「仮修行ポイント」とします。

そののち、1季節(4ヶ月)が経過すれば、 この期間で得られた修行ポイントを仮修行ポイントに加え、真の修行ポイントとすることができます。 このときに初めて、相当するレベルになることができるわけです。

かならず1季節(4ヶ月)だけの修練が必要なことに注意してください。

さて、仮レベルと真のレベルには差がありません。 それでは、わざわざ技能/流派別に修練をする必要があるのでしょうか?

わざわざ修練を積む理由は「より高みを目指す」ためです。 武芸十八般の制覇を目指したり、さまざまな流派の特徴を身につけたりするには、 その流派・技能について時間を割き、学ばなければならないのです。

例: 《剣術(薬丸自顕流)》のレベルは10ですが、 直心流の剣術や、抜刀術は学んだことがないキャラクターがいます。

このキャラクターが直心影流の道場に通いはじめたときは、 《剣術(直心影流)》のレベルは0のままです。仮レベルは 10 - (0 + 2) = 8 ですから、 彼は8レベルを満たす修行ポイント、すなわち1280ポイントを仮修行ポイントとして 直心影流の修行を開始することができます。 これから1季節の間修行をつんで、例えば100ポイントを得たとすれば、 修行ポイントは 1280 + 100 = 1380 となり、レベル8になります。

一方、彼が薬丸自顕流の抜刀術を学ぼうとするなら、 仮レベルは 10 - (2 + 0) = 8 ですから、 1280ポイントを仮修行ポイントとして修行を始めます。 技能が違っても、流派が同じであれば理合にも若干の共通点があるため、理解が早いのです。

これが田宮流の抜刀術であれば、 10 - (2 + 2) = 6 レベル→720 ポイントが仮修行ポイントになります。 武術にはそれぞれなんらかの関係があるので、ある武術を極めれば、別の武術を学ぶことは ある程度容易になるのです。


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