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作品紹介 --- やゆよ ---

柳生十兵衛の死の謎に迫る  --- 柳生十兵衛死す ---

山田風太郎,
「柳生十兵衛死す」(上)(下),
N 小学館 (小学館文庫)

慶安三年三月二十一日、山城国の木津川。その河原に倒れていたのは、このあたりを統べる柳生の庄の領主、柳生十兵衛であった。血塗られた刀を片手にし、脳天から鼻柱まで見事に切り下げられた十兵衛であるが、なんと、潰れている方の眼が開き、開いている方の眼が潰れているではないか!

天下の名人、柳生十兵衛を斬ったのはいったい誰か?

史実では、柳生十兵衛は慶安三年三月二十一日、わずか44歳でこの世を去っています。その死因は特に記録されておらず、なぜこのような若さで亡くなったのか、謎に包まれています。この謎を、奔放な想像力で見事に描いたのが本作品です。

柳生十兵衛と仲のよい能楽師、金春竹阿弥は、その先祖であり能の完成者である世阿弥を材にとった秘曲の完成を目指していました。世阿弥曰く能は変身の芸。そしてその究極である秘曲「世阿弥」は、演じる竹阿弥を室町の世の世阿弥に、そして剣から入り能の究極と同じ域に達した十兵衛を、その先祖であり陰流の達人の室町の世の柳生十兵衛に変身させてしまったのです。そしてまた、室町の世阿弥と十兵衛は、それぞれ慶安の竹阿弥・十兵衛として覚醒しました。

かくして、能というタイムマシーンを使い、陰流と新陰流を一身に融合させた柳生十兵衛が江戸・慶安と室町を又にかけた波瀾の活躍。

慶安では後水尾法皇、紀州大納言徳川頼宣、由比正雪が幕府転覆を狙い、室町では足利義満が天皇の地位を狙う。そして竹阿弥の子で十兵衛の弟子、剣の天才の金春七郎と、室町の十兵衛の師匠であり陰流々祖の愛州移香斎が絡み、さらに数々の有名人も入り混じる、世紀の大伝奇小説です。

著者の山田風太郎については今更語るべきこともありませんが、伝奇小説の依然第一人者にふさわしいと思います。とにかく時間を忘れて読めるエンタテイメント。ぜひお読みください!

田舎者のスーパーマン  --- 夢介千両みやげ ---

山手樹一郎,
夢介千両みやげ,
講談社 (講談社大衆文学館)

「山手調」と呼ばれる明朗闊達、健全そのものの話です。山手樹一郎の代表作の一つですが、なんと幻の続編「夢介めおと旅」まで収録してあるという、実によくやってくれた講談社、みたいな。なんか変な文章だな。

主人公は夢介、小田原の豪農の跡取りで、千両を使って江戸で道楽をしてこい、と親にいわれて旅立っては来たものの、途中で会った道中師(一人旅の人と仲良くなり、一緒の部屋に泊って、金を持って逃げる盗人)のお銀に惚れられて、江戸でともに暮らすことに。 金もあり、力持ちで、柔の心得もあって、しかも無類のお人好し。夢介は、まさに田舎者のスーパーマンなのです。持ち前の金と力でいろいろな人を助け、いろいろな女に惚れられる。それをお銀ははらはらしながら見守って、やきもちを焼いてみたりする。

いや、もう、健全そのもの。いやなことがあったら読んでみると、元気が出てきそうです。

旅あり剣あり女あり  --- 陽気な殿様 ---

五味康介,
陽気な殿様,
文藝春秋社 (文春文庫),

「水戸黄門」を引くまでもなく、実は高貴のものが身分を隠して (お忍びで) 旅をする、という話は、時代劇の恰好の題材です。「柳生武芸帳」で有名な五味康祐の「陽気な殿様」は、このパターンをきちんと踏まえています。

姫路十五万石の城主にして老中の榊原忠次の御曹司、隼之介君は、退屈しのぎに皆に話をさせているとき、ある事件を耳にしました。

尾張浪人の菅野六郎左衛門なる男が、姫路にいる友人の家人、伴角右衛門の密通を咎め、騙し討たれました。そればかりでなく角右衛門は、六郎左衛門が強盗を働いたと主張し、その罪を元に、六郎左衛門の子供の4人のうち3人の首を刎ねたのです。今は、角右衛門は姫路を出て、明石家に匿われています。

ところが尾張藩が、元の家臣が強盗に入った、というのを不審に思って、乗り出してきています。これは一大事、隼之介は暇を取って国許に向かいます。

隼之介は、家来衆とは途中で別れ、幼馴染の大工八五郎、それに盗人、陽炎の三次と気ままな旅を続けます。それに隼之介の剣の師にして狂気の剣客、挙手田多門と、隼之介が多門の妻にと考えるお八重が絡みます。

途中で、浜松藩の大田家のお家騒動に巻き込まれたり、呑水なる謎の和尚に禅寺で修行させられたり。

明石の姫、弥々姫を拉致して角右衛門と引き換えようとの奇策を立てた隼之介。ところが、拉致した姫と隼之介は互いににくからず思うようになり…。

ロマンスあり、チャンバラあり、痛快な娯楽小説に仕上がっています。もやもやをすっきりさせたい方はぜひどうぞ。

会話の楽しさを満喫  --- 用心棒日月抄 ---

藤沢周平,
用心棒日月抄,
新潮社 (新潮文庫),
藤沢周平,
孤剣 --- 用心棒日月抄,
新潮社 (新潮文庫),
藤沢周平,
刺客 --- 用心棒日月抄,
新潮社 (新潮文庫),
藤沢周平,
凶刃 --- 用心棒日月抄,
新潮社 (新潮文庫),

藤沢周平といえば、「用心棒日月抄」シリーズを忘れてはいけません。 NHKのドラマ「腕におぼえあり」の原作、といえば、 あああれか、と思う人もいるでしょう。

「用心棒日月抄」シリーズの第一作、「用心棒日月抄」は、大体こんな感じの話です。 藩主毒殺の陰謀に巻き込まれて、婚約者の父を斬って脱藩した青江又八郎は、 生計(たつき)の道に困って、 狸のような顔をした口入れ屋・相模屋の紹介で、用心棒稼業をはじめます。 国許から送られて来る刺客との戦い。 そして、同じく用心棒の細谷源太夫との友情、 用心棒の仕事での人との触れ合い。 さらに、赤穂浪士たちとの関り合いが一本筋を通しています。

これらの作品の魅力は、 なんといっても、登場人物の間の台詞のやり取りでしょう。 やっぱり藤沢周平はうまいですねぇ。

吉原の実体とは?  --- 吉原御免状 ---

隆慶一郎,
吉原御免状,
新潮社 (新潮文庫),
隆慶一郎,
かくれさと苦界行,
新潮社 (新潮文庫),

スケールが大きい話、とくれば、隆慶一郎「吉原御免状」「かくれさと苦界行」です。

主人公の松永誠一郎は、両親に捨てられ、ものごころつく頃から、肥後の山中で宮本武蔵に育てられました。彼は、師と分かれてからずっと、山の獣たちを相手に暮らし、一人で剣の修行をしていましたが、師・武蔵の遺言により、二十六になったとき、山をおりて、 吉原の創始者、庄司甚右衛門を尋ねます。しかし、甚右衛門はすでに亡き人でした。誠一郎は、吉原の中核にいる幻斎という謎の老人と知り合い、次第に闘いの中に巻き込まれていきます。

その鍵となるのが、「神君御免状」、またの名を「吉原御免状」です。吉原御免状をめぐる吉原側と裏柳生、そして老中酒井忠清との闘い。表柳生の総帥・柳生宗冬や、傾きもの・水野十郎左衛門との、一種奇妙な友情。その中で、人間として、そして剣士として成長していく松永誠一郎。誠一郎の出生の秘密とは? 吉原の正体とは、そして吉原御免状とは? 謎が謎を呼ぶ一大伝奇小説です。

話してしまうと面白くないのであまり書きませんが、隆慶一郎得意の「道々の輩(ともがら)」史観が利いて、実に熱い話になっています。映画化とかしないかなぁ。


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