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作品紹介 --- はひふへほ ---

捕物帳の草分け  --- 半七捕物帳 ---

岡本綺堂,
半七捕物帳,
光文社 (光文社時代小説文庫),

時代小説で「三大捕物帳」といえば、岡本綺堂「半七捕物帳」、野村胡堂「銭形平次捕物控」、佐々木味津三「右門捕物帖」の三つになりますが、その中でも、捕物帳の草分け的存在、「半七捕物帳」を紹介しましょう。

新聞記者である「私」は、半七という老人と親しくなります。彼は若い頃、岡っ引であり、さまざまな事件に携わってきました。 半七老人は「私」にさまざまな話をしてくれます。人情あり怪談あり、「江戸時代に於ける隠れたシャアロック・ホームズ」半七の頭の冴えは、なかなか気持ちよいものです。

これは、時代考証の確かさにも定評のある作品です。それもそのはず、もともとこの作品は、作者の岡本綺堂が、東京から徐々に失われていく江戸らしさを惜しみ、それを残そうとして書いていったものなのだそうです。

文章は今読んでも新しい、落ち着いた語り口です。ちょっと引用して見ましょうか。

長い橋の中ほどまで来た頃には、河岸(かし)の家々には黄いろい灯のかげが 疎(まば)らにきらめきはじめた。大川の水の上には鼠色の煙りが浮かび出して、遠い川下が水明かりで薄白いのも寒そうに見えた。橋番の小屋でも行灯に微かな蝋燭の灯を入れた。今夜の霜を予想するように、御船蔵(おふなぐら)の上を雁の群れが啼いて通った。

「半七捕物帳(一)」p.57より
…どうです。いいでしょう。岡本綺堂は新歌舞伎の第一人者だったからでしょうか、実にビジュアルな文章ですね。

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