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第二章 職業

渡世は八百八品
--- 西鶴織留‐四


ここでは、PCが選択できる職業について、説明します。PCは何らかの職業について江戸に在住しています。その職業の数は普通のRPGに比べ、遥かに多いものです。これは、時代劇の世界をより忠実に再現するためであり、また、プレイヤーの方々が自由にキャラクターを製作できるようにと用意しました。

「秘伝の声」でのPC達はいわゆる「冒険者」ではありません。そういった特別な存在ではない、どこにでもいるような武士であり、庶民なのです。ゆえに、役に立ちそうにない職業もありますが、たまにはそうした職業についたキャラクターを演じることも、また趣深いことです。

なお職業の一覧は「職業リスト」に別途示してあります。 御参照ください。

職業の見方

職業データの見方について説明します。それぞれの職業には、それにつくための必要条件と、ついたときに与えられる技能、特技、修得する機会のある技能や特技について記されています。目的の職業につくためには、その必要条件を満たすために、別の職業につかなくてはならないこともあるでしょう。

経歴に合わせ、必要条件に注意しながら職業を選ぶようにしましょう。

なお、職業としては「跡取り」や「見習い」にあたるものは特に用意していません。旗本の嫡男は「旗本」、医者の見習いは「医者」、香具師の元締の右腕は「香具師の元締」として考えてください。

初期職業キャラクターの経歴で、最初に選択できる職業か否かを示します。
必要条件その職業につく条件を表します。この条件を満たしていないキャラクターはその職業につくことは出来ません。ただし、「初期職業」として選ぶ場合は、「技能」「特技」の条件を満たす必要はありません。
技能その職業につくことで、修得する機会が得られる技能です。その職業についた時点で修得していない技能は0レベルから始まります。ここに書かれている技能から一つを選んで、修行することができます。修行できる技能は、一期間につき一つだけです。技能の修行開始年齢は最低10歳以上です。
特技その職業につくことで修得する機会が得られる特技です。職業について一期間経過すると、その職業に示されている特技をそれぞれ1レベルずつ、自動的に修得します。それ以降はCPを消費してレベルをあげることができます。
所持品その職業につくことで、普通、所有しているものです。
住居その職業についたときの住まいです。

二ノ一 武士

江戸の社会で唯一身分差が感じられるのが武士です。他の身分の者たちは武士に対して当たり前のように敬意を払います。武士はその誇りと厳しい自律を持ってその身分を保っています。唯一帯刀が許されている身分です。


大名

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/初期職業から継続
技能 : 武術系技能(一般)、学術、茶道、華道、文学
特技 : 礼儀作法、読み書き、乗馬
所持品 : 打刀、脇差、小柄、扇子
住居 : 故郷の城と江戸屋敷

大名とは、知行高一万石以上の武士のことです。 いわゆる「殿様」であり、幕府の政治はすべて、彼らによって運営されています。

大名は他の武士とは一線を画すものです。 それはやはり、江戸の封建社会にあって最上位に位置し、 朝廷から官位を与えられるためです。大名はその格式を示すため、 「守」を名乗ることが許されています。

そうした大名の格式は、大大名ならともかく、小大名にとっては重い負担です。 数多くの家臣や奉公人を召し抱えなくては、大名としてのメンツが立たないのです。 年貢は四公六民で、石高の四割が収入となります。 しかし小大名は、その収入だけでは家を維持できず、 借金をしたり、内職をして生計を立てている者もいます。

大名は皆、役職が与えられており、仕事に忙殺されています。 しかも、四六時中、家臣の者がそばにいるのですから、 プライベートな時間はほとんど夜だけです。 それをうっとおしく思い、お忍びで市中に出かけていく大名も少なくありません。


旗本

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/初期職業から継続
技能 : 武術系技能(一般)、学術、華道、茶道、文学
特技 : 礼儀作法、読み書き、乗馬
所持品 : 打刀、脇差、小柄、扇子
住居 : 江戸旗本屋敷

旗本とは、知行高一万石未満、二百石以上の武士のことです。 旗本と大名は、将軍への目通りの権利、いわゆる「お目見」が許されています。

格式としては大名より劣り、官位ももらえません。 「守」を名乗れるのも、役禄三千石以上の役職についている旗本だけです。 しかし、大身旗本の生活は、格式ばった小大名の生活よりもずっと裕福です。 大身旗本の多くは、奉行所や目付、評定所などの役職についています。 家禄が役禄(やくろく)に満たない場合、 役禄と家禄の差額分を増収として与えられます。 役職についていない旗本は「無役(むやく)」と呼ばれます。 彼らは働かなくても、裕福な生活が送れるので、 いつも屋敷で退屈の虫をはびこらせています。

しかし、小身旗本は、小大名同様、格式に振り回されて貧しい生活を送っています。

旗本の中には、町人出身の者もいます。 技芸(ぎげい)に優れた町人が、一代に限り、旗本になることも稀に見られます。


御家人

初期職業 : 可能
必要条件 : 男
技能 : 武術系技能(一般)
特技 : 礼儀作法、読み書き、内職
所持品 : 打刀、脇差
住居 : 士官先の長屋、あるいは拝領屋敷

御家人とは将軍と主従関係を結んだ家臣のことです。 すると、旗本も御家人に含まれることになりますが、 両者は石高によって区別されるのが普通です。

一般的に御家人には譜代・二半場(にはんば)・抱入(かかえいり)という区別があります。 譜代と二半場は徳川家康から四代家綱までに 与力・同心の職を勤めた者のことです。 譜代と二半場は家督相続が可能ですが、 抱入は一代限りの奉公で、交代には新規召抱(めしかかえ)の手続きが必要となります。 そのため、抱入の席は株として売買することができます。

御家人の収入は家禄または、役禄です。 その額は二百四十石から四両一人扶持(一人扶持は一日玄米五合)まで様々ですが、 ほとんどの御家人はその収入だけでは生活できないほど貧しいものです。 それゆえ、彼らは内職などをして生活を支えなければなりません。


与力

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/初期職業から継続
技能 : 武術系技能(一般)
特技 : 礼儀作法、乗馬、記録
所持品 : 打刀、脇差、馬一頭
住居 : 八丁堀の組屋敷

与力とは、所司代や諸奉行、城代、大番頭(おおばんがしら)等の下で、 長を助けて働く武士のことです。 彼らは同心を指揮し、事務を分掌・補佐する、いわば中間管理職です。

与力の中でも有名なのは町奉行所の与力でしょう。 町奉行は北町と南町の二つがあり、与力はそれぞれ25騎づつ、合計50騎います。 与力には歳番(としばん)、牢屋見廻り、本所見廻り、 養生所見廻り、火事場建具改、町廻り等の役職があります。 財政、人事といった事務仕事は、歳番等が行い、 それ以外の与力はほとんど市中へ出て、巡視を中心とした仕事をしています。 裁判担当の吟味(ぎんみ)役は、重要かつ熟練を要するため、 有力な家柄の者がなるのが通例です。

与力は一代限りの抱席ですが、実際は世襲が慣例となっています。

与力のほとんどは150石から200石取りと、 御家人の中では裕福な生活を送っています。


同心

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/初期職業から継続
技能 : 武術系技能(一般)、捕縛術
特技 : 記録、尋問、探索
所持品 : 打刀、脇差、十手
住居 : 八丁堀の組屋敷

同心は与力よりもさらに格下の役人です。 いわば、地方公務員下級職といったところです。 同心も与力と同様、城代、大番頭、所司代、諸奉行の配下です。 中でも有名なのは、やはり町奉行の同心でしょう。

町奉行に配属されている同心は、南北各140人。 そのほとんどが内勤です。同心の花形職といえば、三廻りの同心です。 彼らは与力の支配を受けておらず、町奉行に直属しています。 彼らは現代でいう刑事であり、同心の中でも最高の位に位置しています。 三廻り(さんまわり)とは、隠密廻り、定町廻り、臨時廻りの三つで、 この順番で格上となっています。

隠密廻りは探索方で、市中に身を潜めて情報を集め、捜査をする役目です。 定町(じょうまち)廻りは、御存知、十手持ちの同心のことです。 彼らは御用聞きを世話しながら、江戸市中を見回っています。 彼らの人数は、南北合わせて12人です。 臨時廻り同心は、他の二つの役に人手が足りなくなったときにかりだされる、 いわゆる助っ人です。

同心は庶民に接する機会の多い武士です。 彼らに日頃から付け届けする者も多く、 時には厄介事を内密に持ち込まれることもあるでしょう。


武芸者

初期職業 : 可能
必要条件 : 武術系技能(一般)8レベル以上
技能 : 武術系技能(一般)
特技 : 礼儀作法、殺気感知、殺気放射
所持品 : それぞれの技能に合う武器、木刀
住居 : 道場付の持ち家、または長屋の一室

武芸者とは、自らの武芸の腕だけを頼みにこの世を渡る者達です。 彼らは、自らの武術の道を極めんがため、日々修行を積んでいます。

普通、武芸者は道場を持っているか、 人の道場で代稽古を務めるなどして、暮らしています。 稽古に集まる門弟達はほとんどが武家の子息です。 有力な大名や旗本の子息が門弟になれば、強力なパトロンとなることでしょう。 また、金にこだわらない武芸者の道場では、 農民と武士が共に稽古していることもあります。

もちろん、仕官を望む武芸者もいます。 時々、大大名の屋敷で、御前試合が行われることがあります。 仕官を望む武芸者達には、絶好のチャンスです。 試合の成績次第では、指南役として召し抱えられることもありうるのです。 道場持ちの武芸者も参加します。 腕試しと、実戦の勘を養うために、参加するのです。

まれに、武芸者のところに、人斬りの依頼が来ることがあります。 道場には道場破りも来るでしょう。 もちろん、果たし合いや真剣勝負の申し込み、助っ人の依頼も多く来ます。 こうした勝負の中に、常に身を置く武芸者達の世界は、まさに実力が全てです。 そして武芸者は、勝つたび、生き残るたびに、 人の恨みを背負わねばならない宿命を負っているのです。


用心棒

初期職業 : 不可
必要条件 : 男/《剣術》《槍術》のいずれか5レベル以上
技能 : 武術系技能(一般)
特技 : 礼儀作法、殺気感知、大音声
所持品 : それぞれの技能に合う武器、脇差、襷
住居 : 雇い主の家、または長屋の一室

武芸者と同様、自らの武芸の腕を売り、暮らしているのが用心棒です。 ただ、武芸者と違うのは、人に金で雇われて護衛の仕事をすることです。

普通、用心棒は職を紹介してくれる口入屋(くちいれや)に行き、仕事を仲介してもらいます。 口入屋に持ち込まれる用心棒の仕事は様々です。 依頼主の多くは、大商人や旗本などの金持ちです。

口入屋専属の用心棒の仕事は短期の仕事ですが、長期の仕事もあります。 金蔵の警備などはその一例です。長期の場合は、住み込みで働くことになります。 時には雇い主に気に入られ、何年も住み込みで働くこともありえます。 運が良ければ仕官することもできるかもしれません。

同じ用心棒でも、悪党の用心棒になっている者もいます。 彼らは、街の破落戸(ごろつき)達から「先生」と呼ばれています。 悪党達に不都合なことがあればどんな悪いことでもやるのが仕事です。

用心棒はその人の心がけ次第で、良い仕事にも悪い仕事にもなってしまうのです。


武家奉公人

初期職業 : 可能
必要条件 : 男
技能 : 武術系技能(一般)
特技 : 礼儀作法、読み書き、記録
所持品 : 打刀、脇差
住居 : 武家屋敷内の長屋の一室、または大名の下屋敷

武家奉公人というのは、家人のように召し抱えられる家来ではなく、 大名としての体裁を整えるために、雇い入れた奉公人達のことです。 彼らには、若党(わかとう)、 徒士(かち)、 足軽、中間(ちゅうげん)といった種類があります。

彼らは、口入屋によって、大名屋敷に紹介されます。 そして、半年から一年、二年といった短期間、その大名の家来となって働きます。 もちろん、彼らの身分は、大名家の中では最下級です。

普段の武家奉公人は、大名の上屋敷か下屋敷で雑用などの仕事をしています。 仕事が無いことの方が多いので、彼らはよく暇を持て余しています。

真面目に仕えていれば、気に入られて、長く仕えるようになることもあります。 しかし、武家奉公人には悪質なものが少なくありません。 それが大名と家臣達の悩みの種になっています。


渡り中間

初期職業 : 可能
必要条件 : 男
技能 : 剣術
特技 : 賭博、喧嘩、言いくるめ
所持品 : 脇差、さいころ
住居 : 大名の下屋敷

武家奉公人の中でも最も悪質な部類にはいるのが、 渡り中間とか渡り用人(ようにん)と呼ばれる者達です。 彼らは、昼間は市中に出かけたり、下屋敷でごろごろしたりしています。 ところが夜になると下屋敷を博打場に変えてしまいます。 大名は滅多に下屋敷には出入りしない上に、 他の家人や奉公人達には金を握らせてあるので、一切黙認されているのです。 この夜の下屋敷を目当てに、奉公先を渡り歩くので、 渡り中間と呼ばれているわけです。

この夜の下屋敷には、外から出入りする者達もいます。

集まってくるのは、もちろん悪党が多く、 渡り中間は自然と裏の世界の情報を耳に入れることになります。 彼ら自身も、悪事を働くことなど日常茶飯事です。

どちらにしても、渡り中間などというのは、ろくな連中ではありません。


浪人

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/武士からの転職のみ
技能 : 武術系技能(一般)
特技 : 礼儀作法、地域知識、内職
所持品 : 打刀、脇差、内職の道具
住居 : 長屋の一室

武士の中でも最も辛い立場にいるのが浪人です。 浪人というのは、失職中の武士のことです。 彼らが仕官できずに市中に身をやつしているのは、 よほどの事情があってのことです。ゆえに、浪人の人口は多いものではありません。

彼らが浪人になる理由で、最も多いのは、お家取り潰しです。 特に大名家などが取り潰しになれば、多くの家臣が浪人となり、 路頭に迷ってしまいます。 こうした浪人達が再び仕官するには、つてを頼るか、 新規お召し抱えのチャンスを待つしかありません。 荒れた生活を送り、悪の道に入り込む浪人も少なくありません。

また、仇討ちも浪人になる理由の一つです。 人を殺めた罪を負い、脱藩した者と、 それを追う者の両方が浪人となります。 仇を討つものは、 藩からの援助を受けることができますが、 仇討ちを果たすまで、藩に戻ることは許されません。 敵となる者は、何の後ろ楯もなく、 日夜追っ手を警戒し続けなければなりません。 仇討ちというものは、結局、双方に悲劇をもたらすものといえましょう。

浪人の生活は裕福なものではありません。 内職や用心棒などの口を探して生活しているのが普通です。 道場などで代稽古をしている者もあります。 そうやって地道に生活しながら仕官の機会をうかがっています。 しかし、仕官の口にありつける浪人は少ないものです。 浪人の多くは地道な生活を送り続けなければなりません。


虚無僧

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/武士からの転職のみ
技能 : 仏門、剣術
特技 : 楽器(尺八)、方向感知、方言
所持品 : 尺八、笠、脇差、袈裟
住居 : なし

虚無僧は、時代劇でもお馴染みの、 目深く笠をかぶり「明暗」と書かれた箱を前に下げて 尺八を吹いている僧のことです。 彼らは尺八を吹くことを吹禅と称し、 一切の仏事を行わない普化宗(ふけしゅう)に属しています。 吹禅活動は虚無僧寺といわれる 全国的組織によって行われています。 その虚無僧寺の本寺は、下総小金の一月寺と 武蔵青梅の鈴法寺で、この両者は江戸に出張所を設けて 全国の虚無僧を統制しています。

虚無僧には重要な特権が与えられています。 帯刀の許可、浪人の保護、武家以外の者は虚無僧になれない、 諸国行脚の途次(とじ)で不法者を捕らえ、役人に引き渡す、 日本国中往来自由、芝居・相撲などの入場自由といったものです。 これは家康によって与えられた「虚無僧掟書」に書かれています。

こうして虚無僧は天下を横行しています。 その特権を乱用する者も少なくありません。 しかし、その粋な虚無僧姿は人々の人気の的になっています。

二ノ二 農民

江戸の生産活動の主役です。 農民という身分は一概に貧しいというイメージがありますが、 そんなことはありません。 彼らは、ほとんど自給自足に近い生活をし、 いたってのんびりと生活しています。


百姓

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : 農業、牧畜、猟
特技 : 動物知識、植物知識、地域知識
所持品 : 鍬、手拭
住居 : 藁葺きの小屋

江戸の社会を底辺で支えているのが、百姓達です。 彼らの生産する米や穀物は、金と同様にあつかわれているのです。 幕府が士農工商という身分制度を定めて、農民を尊重したのも当然といえます。

彼らは自給自足の生活をのんびりと営んでいます。 彼らの生活は村を単位とする共同生活が中心です。

収入は、毎年の収穫です。 四公六民ですから、収穫のうち4割は、年貢として納めなくてはなりません。 残る6割の収穫物で、一家は生活しています。 ただし、裏作は対象外なので、どの百姓も裏作をしているのが普通です。 収穫物を商人に売ることによって、金銭を得ることができます。 江戸の郊外に住む百姓であれば、野菜などを、 市中へ直接売りに来ることもあります。

何代も前から受け継がれてきた畑を守り、 自然と共に暮らしている、それが百姓なのです。


漁師

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : 漁、商い、操船
特技 : 地域知識、方向感覚、水泳
所持品 : 銛、網、手拭、小舟
住居 : 板屋根の小屋

海や川で魚を獲り、生活を営むのが漁師です。 獲った魚貝類を商人に売ることによって金銭を得ています。

江戸近郊の漁師は、江戸湾岸沿いに住んでいます。 江戸湾では、海の魚以外にも川魚が多く獲れ、漁獲量も豊富です。 彼らは、江戸湾で漁を営みながら、百姓と同様、貧しい生活を送っています。 彼らの生活もまた、漁村単位の共同生活が中心です。

江戸湾の新鮮な魚は、江戸前の料理の主役です。 江戸の高級料理といえば、新鮮な魚料理。 大小問わず、料理屋はすべて、新鮮な魚を求めています。 活きのいい魚を獲れる漁師なら、得意先の料理屋を持ち、 そこに直接魚を売りに行くこともありえます。

漁師も、自然の中に生きる職業です。 貧しい中でも、自分の仕事に誇りを持ち、生き生きと暮らしています。

二ノ三 町人

江戸では最大の人口割合をもつのが町人です。 江戸市中に住む人々であり、その職業は様々です。


職人

初期職業 : 可能
必要条件 : 〈器用〉0以上
技能 : 職工(一種)
特技 : 交渉、地域知識、値踏み
所持品 : 仕事道具一式、手拭
住居 : 長屋の一室

職人という職業にはとても広い意味が含まれています。 大工から、刀職人、畳職人など、 およそ日用品として使われるものはすべて職人が作っています。

職人には大きく分けて二種類います。 一方は自分で注文を取り、自分で仕事をする、一般職人です。 彼らは大口の仕事を受けることは困難であり、 小口の仕事を受けて、地道に生活しています。 もう一方は手間取職人です。 手間取職人とは、店持ち親方の下にいて仕事を受ける、下請け専門の職人です。 彼らの給料は出来高に応じて、親方が支払います。 店持ち親方というのは、いわゆる棟梁で、 どちらかというと商人的性格の強い職人です。 彼らは大規模な工事や建築といった大口の仕事に競争入札して、 その上で下請けの職人を雇い入れて仕事をします。

職人達の平均労働時間は、一日約8時間。 働きさえすれば、一家三人なんとか暮らしていける程度の日銭が入ります。 彼らの生活は江戸の町人の基本的な生活レベルであるといえます。


船頭

初期職業 : 可能
必要条件 : 《水泳》1レベル以上
技能 : 操船
特技 : 方向感知、地域知識、水泳
所持品 : 舟、手拭、煙管
住居 : 奉公先の裏長屋

江戸の街には、大川(墨田川)を中心に、細い運河が網目のように流れています。 特に深川などは、ベニス以上の水上都市といわれています。 こうした川は交通機関として広く利用されています。 そこで欠かせないのが、この船頭という職業です。

船頭の多くは、廻船問屋や船宿に雇われ、 船を用いて、荷の運搬、人の送り迎えなどをします。 地方との交易をしている大手の廻船問屋であれば、 千石船に乗り組むこともありますが、たいていは一人で櫓を漕ぐ小舟です。

船宿での船頭の仕事は、自分の店の客の送り迎え、屋形船の操船が中心です。 また、船宿の多くは大川の岸にあるので、 大川に面した深川、吉原といった遊郭(ゆうかく)への 客の送り迎えも仕事の一つになっています。

船頭の収入はかなりいいものなので、それ程生活に困ることはありません。


医者

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : 医術
特技 : 読み書き、植物知識、動物知識
所持品 : 医療道具一式、手拭二枚
住居 : 療養所、あるいは持ち家

江戸一番の社会的名士といえば、やはり医者です。 医者の人口はあまりに少なく、人々からの尊敬も今とはくらべものになりません。

医者になるためには特別な試験などは必要ありません。 ちゃんとした医者の先生のもとで修行したという実績さえあれば、 だれでも医者になれます。 後は自分の腕次第です。

「医は仁術」といわれます。 この時代、医者には一貫した道徳やモラルが行き渡っていましたから、 金儲け本位のひどい医者はいません。 また、休日や深夜に叩き起されても、文句一つ言わず、患者を診察します。 貧乏な者からは、診察料を取らない医者もいます。 こうしたことがいやなのであれば、だれも医者にはなれません。

医者にもいくつか種類があります。 外国の最新医術を長崎で学んだ蘭方医、 中国の漢方薬の知識を用いる漢方医、 現代でもお馴染の鍼灸医、多様な薬草を用いる薬師(くすし)、 そして外科医、内科医です。

江戸時代では、まだ近代的な医療技術が進歩していませんので、 大掛かりな手術はできません。 また、手術ができるのは、蘭方医と外科医だけです。

医者はたいてい、自分の家で診療所を開いています。 また、貧しい者達のために小石川に養生所があり、 そこで働いている医者もいます。

また、典薬頭(てんやくがしら)、 奥医師、表御番(おもてごばん)医師など、 幕府御用達とでもいうべき者たちがいます。 彼らは武家に近い待遇を受け、他の医者仲間からも一目おかれています。


御用聞き

初期職業 : 可能
必要条件 : 男
技能 : 捕縛術、剣術、槍術、柔術
特技 : 尾行、探索、地域知識
所持品 : 十手、縄
住居 : 女房の経営する店屋

御用聞きは、岡っ引、手先、目明しなどとも呼ばれます。 彼らは町奉行の同心の配下にいて、 市中の警邏(けいら)をしています。

御用聞きは自分の縄張りを持っており、その地域の取締りを担当しています。 彼らは地域の者から、「親分」と呼ばれます。 彼らには上司ともいえる同心がいます。 同心は、御用聞きを何人か世話しており、 自分の仕事を手伝わせて、給金を与えています。 しかし、その金額は小づかい程度のものです。 では、御用聞きの生活が苦しいのかというと、そうでもありません。 御用聞きの女房は、たいてい店屋を経営しており、主人の仕事を助けています。 また、その地域の店屋や商人などは、御用聞きに付け届けしたりもします。 そうしたお金がなければ、御用聞きは自分の下っ引を世話することができません。

下っ引は、御用聞きの下で情報収集をしたり、仕事の手伝いをする者達のことです。

御用聞きには十手が与えられます。 これは武器であると同時に、お上の御用を手伝う者であることの証明です。 その御用聞きが誠実で信頼ある者ばかりかというと、そうでもありません。 権力をカサにきた御用聞きが悪事を働くこともしばしばです。 それが奉行所にとって、悩みの種になっています。


家主

初期職業 : 不可
必要条件 : 40歳以上
技能 : 商い(長屋経営)、家事
特技 : 仲裁、盆栽いじり、地域知識
所持品 : 煙管、筆、ふろしき
住居 : 持ち家

家主というのは、長屋の大家さんのことです。 長屋の多くは「裏長屋」または「裏店」と呼ばれていて、 商人の持つ店の裏にあります。 長屋の一室を小さな店屋にしている家主もいます。 どちらにしても長屋経営は副業にほかなりません。

家主と長屋の持ち主は、必ずしも同一ではありません。 家主は、その長屋に住み、その一切の管理を受け持っています。 家主の仕事で最も重要なのは、家賃の徴収です。 長屋の経営はとても儲かるので、長屋の持ち主は家賃の徴収に気を配っています。 長屋の持ち主が家主であれば問題ないのですが、 そうでなければ、家主は信頼できる人物でなければなりません。 隠居した商人が、自分の持っている長屋の家主になるこもあります。

家主は長屋の住人にも信頼がなくてはなりません。 長屋は、現代では考えられないほどの人口密集地です。 また、そこには親密な共同生活の場があります。 その責任者であり、管理者である家主は、 住人達の信頼なくしては、とてもやっていけません。 しかし、中には因業(いんごう)な家主もいます。 そういう家主には、いずれ住人達のしっぺがえしをくらうかもしれません。 江戸は共同生活の社会です。 人生経験が豊富で、いつも親身な家主であれば、おのずと評判も違ってくるでしょう。


火消

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/〈腕力〉と〈敏捷〉が共に0以上
技能 : 火消し
特技 : 登はん、喧嘩、大音声
所持品 : ねじりはちまき、手拭い
住居 : 長屋の一室

江戸の華といえば火事と喧嘩というくらい、江戸の街では火事が頻繁に起こります。 しかも、一度火事になれば大きく燃え拡がってしまうので、 江戸の人々も役人も、頭を悩ませています。 そういうわけで、火消はとても重要な職業です。

火消の組織は、8代将軍吉宗の時代に整備されました。 定火消は大身の旗本の役職です。 江戸城の近くに屋敷をかまえ、消火専門の人夫を抱えています。

大名火消は大名が持つ火消で、場所はどこであれ駆けつけて、 消火活動をする義務を持っています。

町火消は町奉行の管轄下にありますが、 実際は独立した組織と考えた方がよいでしょう。 町火消は、いろは四十七組(へ、ら、ひはなく、かわりに百、千、万の組がある)、 さらにこの四十七組が一番から十番の大組に分かれています。 総員は約九千人。 彼らは普段、普請場で土木作業などをする鳶人足(とびにんそく)です。

火消の中にも階層があり、頭取、纏持(まといもち)、 梯子持(はしごもち)、平、下人足に分かれています。 中でも火消の花形は纏持で、彼らは火事場で真っ先に梯子を上り、 目印の纏を立てる危険な役目です。 そのほかの火消は、破壊による消火活動を行います。 竜吐水(りゅうとすい)というポンプもありますが、 あまり役にはたちません。 もっぱら破壊によって延焼をふせぐ方法で火を消します。

火消は気が荒く、町火消と定火消、大名火消との間には、強い対抗意識があります。 しかし、いつもこざっぱりとした格好をし気前がいいので、 町人達も悪印象は持っていません。


女中

初期職業 : 可能
必要条件 : 女
技能 : 家事
特技 : 礼儀作法、読み書き、裁縫
所持品 : 簪(かんざし)、襷(たすき)、手拭い
住居 : 住み込みの屋敷や店

女中は下働きをしている女性のことです。 下女ともいいます。 女中という職業の含む範疇(はんちゅう)は広く、 大名屋敷の奥女中から、街の料理屋の座敷女中まで含まれます。 女中の多くは、農民や浪人といった、貧しい家の娘達です。 彼女達は口入屋を通して奉公先に出向くことになります。 奉公先は、商人の家や、旗本、大名屋敷まで様々です。

女中の仕事は、炊事、洗濯、掃除などの雑用です。 仕事ぶりが熱心であれば、 家の主人の身の回りの世話などをまかされることもあります。

彼女達は奉公先に住み込みで働いています。 年収は一両から二両。 少ないとは思いますが、住み込みで、 しかも食事付き、一年中昼も夜も忙しく働いている彼女達に、 お金の使い道はあまりありません。

時には、家の主人や 奥方が、「家に帰っておいで」と言って、 二、三日の休養をくれることがあります。 女中にとって、このつかの間の休日は何にも変え難いものです。


女房

初期職業 : 不可
必要条件 : 女
技能 : 家事
特技 : 調理、裁縫、軽口
所持品 : 櫛(くし)、手拭い
住居 : 旦那の職業による

江戸時代の結婚適齢期は、18歳から21歳の間です。 現代にくらべれば、女性達はかなり若くから家庭に入っています。 その、結婚して専業主婦となったのが、女房です。 江戸の社会では、女性は家庭を守るもの、というのが一般の風潮です。 ですから、既婚女性のほとんどが専業主婦であるといえます。

女房というのは、庶民の主婦のことをさします。 武家の女性であれば、御内室、奥方、丁寧な言い方で御内儀などと呼ばれます。

女房の生活はなかなかに忙しいものです。 炊事、洗濯、掃除はもちろん、買い物や子どもの世話なども、 今とは違って大変なものです。 また、生活に必要なものは、ほとんど町内でそろってしまうので、 彼女達は一生のほとんどを町内から出ずに過ごすことになります。 そんな日常ですから、彼女達の楽しみは、井戸端会議ということになります。

女房の望みは、ささやかな幸せです。 女の方からは離婚できない社会ですから、 自分の幸せはすべて夫まかせになります。 よい伴侶とめぐり会うかどうかで、彼女達の一生は大きく左右されるのです。


板前

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/《料理》5レベル以上
技能 : 料理
特技 : 時間感覚、軽口、記憶
所持品 : 包丁、手拭い、ねじりはちまき
住居 : 長屋の一室、あるいは店屋

今も昔も、板前といえば料理人です。 鎖国をしている江戸時代、料理といえば和食しかありません。 彼らは一軒の店に奉公、あるいは自分で店を持ち、そこで働いています。

腕のいい板前には、もちろん常客がつきます。 店が小さくても、料理がいいものならば、自然と客は集まってくるものです。 大きな料理屋であれば、腕のいい板前は喉から手が出るほど欲しいものです。 時には他店から、板前を引き抜くこともあります。 江戸の名だたる料理屋は、 板前の腕によって名声を得ていると言っても過言ではないでしょう。

板前の作る料理の多くは魚料理です。 江戸湾では、新鮮な魚が多く獲れるので、それを活きのいいうちに料理するのです。 俗に、「料理は材料七分に腕三分」といわれます。 材料の選択、切り方、盛り付けなどにこそ、板前の技量が試されます。 もちろん他にも多くの料理がありますが、 鰻や天ぷらが高級料理として扱われるのは江戸後期になってからです。


芸者

初期職業 : 不可
必要条件 : 女
技能 : 舞踊、楽器
特技 : 魅了、値踏み、演技
所持品 : 櫛(くし)、簪(かんざし)、扇子
住居 : 長屋の一室、あるいは店屋

誤解されがちですが、芸者は遊女と違い、身体を売るようなことはありません。 彼女達は酒の席に興(きょう)を添える芸人達です。

もともと、芸者としてのたしなみは遊女が身に付けていなくてはならないものです。 しかし、素養のない遊女が多くなり、芸者と遊女の役割が分離したわけです。 ですから、芸者の多くは遊廓の近くに住み、仕事をしています。 彼女達は酒宴のできる料理屋などに呼ばれ、客の相手をします。 客が小人数であれば一人から三人くらい、大勢であれば、 大人数の芸者達が興を催すことになります。

彼女達の客は、大商人や旗本など、ある程度の金持ちです。 客は教養人ですから、 芸者はその酒の席についていくだけの芸と教養を身に付けなくてはなりません。 そのために彼女達は、日々の努力を怠りません。 華やかな姿の芸者の影にも、日々の地道な努力があるのです。


座頭

初期職業 : 可能
必要条件 : 特徴「盲目」
技能 : 按摩、楽器
特技 : 方向感覚、地域知識、聞き耳
所持品 : 杖、仕事の道具一式
住居 : 長屋の一室

座頭の職業につくには、キャラクターは盲目でなくてはなりません。 盲目の者達は僧の姿をし、楽器を弾いて歌を歌い、語り物を語り、 あるいは按摩、鍼、高利貸しなどを生業としています。 彼らを総称して座頭と呼ぶのです。

楽器弾きの座頭は、庶民を相手に歌い、奏でます。 彼らは多くの物語に精通し、それを語りつつ楽器を奏でます。 彼らの仕事は、庶民にとって手軽な娯楽となっています。 按摩師の座頭は、しょっちゅう一人で出歩くことになります。 腕さえ良ければ、大商人や旗本が得意先になることもあります。 彼らは普通、こうした得意先を二、三軒持っています。 一週間の内に日を決めて、それぞれの得意先を回っています。

座頭の生活は慎ましいものですが、それ程生活に困るというわけではありません。 座頭は目が見えないので生活は不自由ですが、 たいてい、近所の親切な人達が彼らの世話をしてくれます。 いつも他人に支えられて生きている座頭は、心穏やかで優しいものが多いようです。


女郎

初期職業 : 可
必要条件 : 女/特徴「容貌」0以上
技能 : 夜伽
特技 : 魅了、軽口、地域知識
所持品 : 櫛(くし)、簪(かんざし)、化粧品
住居 : 住み込みの店

一口に女郎といっても、その意味は広い範囲に及びます。 吉原などの御免色里の女郎はもちろんのこと、 水茶屋の座敷女中から、旅籠の飯盛女、夜道で客を取る夜鷹まで様々です。

たくさんの種類がある女郎ですが、ただ一つの共通点は、 彼女達は皆自分の身体を売っていることです。 もちろん、女郎にも格というものがあり、 ただ身体を売るという、簡単なものでもありません。

女を買うというだけなら、夜鷹が最も手軽です。 夜、人通りの少ない川べりなどを歩いていれば、 夜鷹の方から声をかけてくるでしょう。 それが嫌なら、水茶屋や出合茶屋、深川などの岡場所に行けばよりどりみどりです。 旅先なら、旅籠に飯盛女がいます。 こうしたところの女達は、百姓や漁師の娘であったり、 貧しい浪人や御家人の子であることもあります。

ところが、吉原の太夫ともなれば、そんな安易なものではありません。 彼女達は、江戸で最も教養と芸能に優れた女達です。 太夫などは、楽器や華道、茶道、舞踊などの技能を身に付けています。 江戸で最高の女を買うためには、客にもそれなりの素養が求められます。 そうでなければ、太夫達には客を振る権利がありましたから、 大金を払って振られてしまうこともあるのです。

女郎の年季明けは、どこでも27歳といわれます。 その間に、馴染の客が女郎を引き取りたいと言ってくることもあります。 そうした時、客は、多額の金を支払うことで、女郎を引き取ることができます。 これが「身請け」です。

「身請け」は女郎の人生だけでなく、彼女を買った客、 彼女の故郷などで様々なドラマを生み出します。


駕篭かき

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/〈腕力〉1以上
技能 : 駕篭かき
特技 : 地域知識、方向感覚、持ち上げ
所持品 : 杖、ねじりはちまき、駕篭(二人で一挺)
住居 : 長屋の一室

駕篭(かご)かきとは、駕篭をかついで人を運ぶ職業です。 現代のタクシーのようなものです。

駕篭かきにもいろいろな種類がありますが、 ここでは、辻駕篭とよばれる庶民対象の駕篭を かつぐもの達を駕篭かきと呼ぶことにします。

彼らは専業の駕篭屋に雇われ、仕事をしています。 駕篭かきは、力さえあれば出来ることから、 最下層の町人の職業でもあります。 駕篭かきは二人一組で一挺の駕篭をかつぎます。 駕篭は四手駕篭と呼ばれる、竹製の簡素なものです。

今のタクシーのように、庶民が頻繁に駕篭を使うことはありません。 駕篭はかなり高い乗物ですので、 特別なことでもあったときにだけ利用されています。


役者

初期職業 : 可能
必要条件 : 男/特徴「容貌」2以上
技能 : 歌舞伎
特技 : 魅了、誘惑、口上
所持品 : 化粧道具一式、扇子
住居 : 演舞場の長屋、芝居小屋

役者は芝居者の範疇に含められるものですが、 ここでは独立した職業として扱います。 芝居には官許の江戸三座(中村座、森田座、市村座)の大芝居と、 盛り場や神社の境内にある小芝居があります。 大芝居と小芝居の役者には大きな差があり、 大芝居の役者は憧憬感(どうけいかん)をもってみられるのに対し、 小芝居の役者は「緞帳(どんちょう)役者」と呼ばれ、 蔑視されています。

もちろん、大芝居の役者の中にも階級はあります。 大きく分けて、スターである大立者と端役である大部屋に分かれます。

大立て者はその筆頭である「座頭」から、名題役者までをいいます。 彼らはいわゆるスター役者であり、メインの役を演じる芝居の花形です。 大立者の中でも、女方の最高の者を「立て女方」といい、 下級の女方を「中二階」といいます。

大部屋とは、通行人や立ち回りなどを受け持つエキストラの役者のことです。 彼らの中にも「新相中」「相中」「相中上分」といったランクがあります。

大芝居の役者は現代のスターと同様、流行の火付け役であり、 最先端をいっています。 彼らのかぶき趣味は、小説、絵画、風俗と 江戸の文化に大きな影響を及ぼしています。 役者の名前や紋所のついた商品や、役者の浮世絵なども出回っています。


芝居者

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : 芝居
特技 : 変装、裁縫、忍び歩き
所持品 : 手拭い、それぞれに必要な道具一式
住居 : 演舞場の長屋、芝居小屋

ここでいう芝居者は、役者以外の劇場関係者の総称のことです。

芝居者は、まず大きく表方と裏方に分けることができます。 これは舞台の引き幕の表と裏で区別している呼び方です。

表方は、主に興業、経営の仕事に携わる人々です。 興業権及び劇場の所有権をもつ者を「座元」「太夫元」といいます。 また、興業資金の出資者を「金方」といい、 資金の半額以上を出資した金方と、 座元はその劇場でトップの存在となっています。 その下にあるのが「帳元」で、座元の事務代理をしています。 更に帳元の下に「手代」がいます。

裏方は、現代と同様、芝居の裏方役を担当する仕事です。 舞台に直接かかわる仕事には、 「道具方」「衣装方」「床山(ゆかやま)」「作者」 「噺方(はやしかた)」などの役割が 分担されています。 もちろんそれらの中にも段階があります。 その他、「木戸番」「楽屋頭取」「楽屋番」「半畳売」「火縄売」などの 仕事があります。

もちろん小さな芝居小屋では、 これらの全ての役割があったわけではありません。 それらがそれぞれの人に割り振られていたのは、 官許の江戸三座くらいのものでしょう。

芝居街と呼ばれる劇場街は、吉原と並ぶ歓楽街であり、そこで働く芝居者は公に軽蔑感をもって呼ばれています。芝居の憧憬感は全て役者のものであり、その影にある芝居者達に観客の目が行くことはないのです。


大道芸人

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : 芸(一種)
特技 : 軽口、物まね、値踏み
所持品 : 芸に使う道具一式、扇子
住居 : 長屋の一室、見世物小屋

人が集まりにぎわうところで、芸を見せて投げ銭をもらう。 それが大道芸人です。 寺社の境内や広場などでは、数多くの大道芸人達が自らの技を披露し、 競いあっています。 人々は、面白ければ投げ銭をはずみ、つまらなければ立ち去ってしまいます。

大道芸人の見せる芸は多種多様です。 獅子舞のかぶりものを着けて曲芸を披露する角兵衛獅子や、 数本の竹管をほうりあげ、手玉にとってみせる綾織、 お手玉や、猿楽、物まね、居合い抜きなどが有名なところです。 こうした大道芸人達の中でも、評判が良い者には、 見世物小屋からのスカウトの声がかかることもあります。

両国広小路と浅草奥山には、数多くの見世物小屋が立ち並び、 江戸の盛り場の中でも特に賑わっています。 見世物小屋は、木戸銭をとって、小屋の中で芸を見せます。 手品や軽業、曲芸や曲独楽(きょくどくがく)などを、 滑稽な身振りや口上で面白おかしく見せるのです。

見世物はそれだけにとどまりません。 珍しい動物を見せるのも、人々に喜ばれる見世物です。 覗き眼鏡といって、眼鏡を通して箱の中を覗き、説明を加えながら、 数枚の絵を見せて物語を楽しませるという見世物もあります。

中にはまがい物の見世物もありましたが、江戸の住人達は物見高く、 大道芸や見世物は江戸庶民の数少ない娯楽となっています。


破落戸

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : なし
特技 : 賭博、喧嘩、嘘
所持品 : 匕首(あいくち)、さいころ
住居 : 長屋の一室、身内の家

破落戸と書いて「ごろつき」と読みます。 破落戸というのは、定職を持たずに遊び歩いている、 やくざや遊び人のことを言います。 仲間達と徒党を組み、「飲む、打つ、買う」を毎日のように続ける札付き達です。

破落戸になる理由は様々です。 悪い友達に誘われて、仲間に入ったのかも知れませんし、 若さゆえに力を持て余しているのかも知れません。 もしかしたら、不幸な生い立ちで、知らず知らず、 破落戸になっているのかも知れません。 いずれにしても、すぐに喧嘩沙汰を起こしたり、 不始末をしでかす破落戸は、庶民から煙たがられています。

破落戸という職業は、厳密には、職業ではないのかも知れません。 一日中遊び歩く連中を、「職を持っている」とはいいません。 彼らはいずれ、定職について身を固めるか、裏の世界に身を落とすかのどちらかです。

二ノ四 商人

商人は江戸ではとても羽振りよく見える存在です。 史実にも、その羽振りのよさで名を残している人物も少なくありません。 もちろん商人といってもいろいろな種類がありますから、 商人という身分全てが金持ちであったわけではありませんが。


大商人

初期職業 : 可
必要条件 : 《商い》8レベル以上
技能 : 商い
特技 : 礼儀作法、値踏み、言いくるめ
所持品 : そろばん、大福帳、扇子
住居 : 持ち家

今も昔も、商品を安く仕入れて高く売ることを生業とする商人がいることに 変わりはありません。 ここでいう大商人は江戸の街でも有数の豪商のことです。 もっとも、大阪の方が大商人が多いでしょう。

大商人と呼ばれる人々は、その多くが卸売業、いわゆる問屋を経営しています。 一口に問屋といってもいろいろな種類があります。 日用品や食料品などの問屋はもちろん、 薬種問屋、廻船問屋、かご問屋、飛脚問屋などおおよそ商売になる財、 サービスには問屋があり、卸売業を営んでいます。

大商人の商売相手は主に武士です。 それも旗本など、家臣を率いる武士との大口の取引が主になります。 有名な豪商ともなれば、 大名家はもちろん、将軍家御用達にすらなるかもしれません。


小商人

初期職業 : 可能
必要条件 : 《商い》3レベル以上
技能 : 商い
特技 : 交渉、軽口、地域知識
所持品 : そろばん、店の売り物の中から一つ
住居 : 持ち家、長屋の一室

ここでいう小商人とは、小売店を主とする 個人事業者のことをさします。 彼らは自らの店を持ち、経営することで生活しています。 そこで扱う商品はほとんどが生活必需品です。

小商人の持つ店は多くの場合、長屋同様の借家です。 表店と呼ばれる彼らの店は通りに面して建てられています。 その裏に入るとそこには裏店と呼ばれる長屋が建っています。 ここで、彼らは一年中商いをしています。 休みは正月とお盆くらいのものです。 しかし、滅法忙しいというわけではないので、 店を開けていてもそれほど苦にはなりません。 小商人は大商人から商品を卸してもらうわけではありません。 ほとんどの場合、彼らは商人に応じて生産者と直接に取引をします。 また、自分自身が職人の技能を持っていることも少なくありません。


奉公人

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : 商い
特技 : 読み書き、礼儀作法、地域知識
所持品 : そろばん、筆、硯
住居 : 奉公先の商家

大商人など店の規模が大きければ、 奉公人を雇って営業することになります。 奉公人は要するに商社や大手販売店のサラリーマンといったところです。 奉公人の奉公先は口入屋が世話をしてくれます。 元服(成人)前に奉公する者達は丁稚(でっち)や小僧と呼ばれます。 彼らにはまた給金は払われません。 このころは店の雑用などをやらされます。 元服後、二十歳前後に奉公人は手代となります。 手代には給与が与えられ、一人前として扱われることになります。 そして、さらに、一定年数を勤めあげ、経験をつんだ者は 手代の長である番頭になるか、あるいは主人の許しを得て独立し、 主家の暖簾(のれん)をかかげる、いわゆる暖簾分けとするかに到ります。 暖簾分けをした奉公人は小商人となります。 彼らは分家として主家の系列下に入ります。 時には主家が金を出してくれて立派な店を持つこともできるでしょう。

一方、番頭は奉公人として主人に仕えることになります。 しかし、経験豊かな奉公人である番頭は、 主家が繁盛するために必要不可欠なものです。 主従の信頼関係はとてもあついものになるでしょう。


物売り

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : 商い
特技 : 地域知識、持ち上げ、軽口
所持品 : 大風呂敷あるいは天秤棒、手拭い、商品
住居 : 長屋の一室

物売りというのは、扱う商品を持ち歩き、 街中を流して売り歩く商人のことです。 物売りはたいてい一人で商売をします。 一人ですから扱う商品の量は必然的に少なくなり、 取引の量も少ないのです。

物売りが売るものは、ほとんどが日用品か食料品です。 商品は2、3種類扱っている程度です。 商品の仕入れは職人から直接買う場合がほとんどです。

商売の相手は庶民、それも町人です。 物売り達にもそれぞれの縄張りがあり、 そこで商売をしています。 それゆえに、その地域の人々と物売りは親しいのです。

物売りの格好は大きく分けて二つあります。 商品の荷物を背負って売り歩く者と、 天秤棒に商品をぶら下げて売り歩く者です。 後者は特に棒手振(ぼてふり)と呼ばれます。 棒手振は売り歩く時、 掛け声をかけながら歩きます。 棒手振達の売る物は季節の物が多いので、 彼らの掛け声は江戸の風物詩にもなっています。


香具師

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : 商い
特技 : 地域知識、口上、喧嘩
所持品 : 短刀、売り物の中から一つ
住居 : 長屋の一室

香具師と書いて「やし」と読みます。 縁日などの市が集まる場所に露店を出し、 興行したり、物を売っていたりする、いわゆるてきやのことです。 この時代は開帳祭礼、興行が非常に多く行われるため、 香具師の出番は多いといえます。

香具師には、その地域ごとに彼らを束ねる「元締」が存在します。 彼らはその元締の許可を得て露店や興行を行っています。 その許可がなければ、他の香具師に追い出されてしまうでしょう。

香具師には気性の荒い者が多く、 よく喧嘩沙汰なども起こします。 香具師は定職とは言い難く、 破落戸(ごろつき)と紙一重といえなくもありません。

二ノ五 裏の職業

江戸の暗黒街で働く者達の職業です。 もし裏の職業についていることがばれてしまったら、 すぐに御用となってしまうことでしょう。 彼らは自らの正体を知られないよう、人生の裏道を歩んでいます。

裏の職業についている者は、その正体を悟られないように、 表の顔の職業についています。 「兼業」で示されている身分や職業は、 その裏の職業の隠れ蓑としてつくことのできる表の職業です。 プレイヤーは、キャラクターの表の職業をこの中から選んでください。 表の職業で得られる技能、特技、所持品、住居などは、そのまま使用することができます。


仕掛人

初期職業 : 不可
必要条件 : なし
技能 : 仕掛け
特技 : 探索、気配消し、変装
所持品 : 仕掛けの道具一式
住居 : 表の職業に準ずる
兼業 : 武士、町人

仕掛人とは江戸の裏社会に生きる暗殺者のことです。 彼らは誰にも決してさとられず、 証拠を残さず、 そして標的となる相手だけを確実に殺害します。 基本的に仕掛人は一人で仕事をします。 ときとして、二人以上でやることもありますが、 そうしたことは滅多にありません。

仕掛人が殺しを働くのは、依頼された場合のみです。 殺しを依頼する人はまずその土地の顔役である香具師の元締のところへ行きます。 元締はその依頼を聞いた後、 手持ちの暗殺者の所へ行って仕事を持ちかけます。 このときの元締の役割を「蔓(つる)」と呼び、 この「蔓」から見た暗殺者のことを「仕掛人」と呼ぶのです。

蔓と仕掛人の立場は対等です。 仕掛人は仕事を断ることもできますし、 その場合は蔓も諦めなければなりません。 しかし、もし仕掛人が殺す相手の名を尋ね、 それを聞いた場合には、仕事を引き受けなければなりません。 しかも依頼人が誰であり、殺す理由も教えてはもらえません。 仕掛人には、「世の中の人のためにならぬ奴」だけを殺す、 という誇りがあります。 そのことに関しては蔓を信用しきらなくてはなりません。 蔓としても仕事は確実にこなしてもらわなくてはならないので、 ここは持ちつ持たれつの関係でもあります。

仕事を引き受けると、仕掛人は法外な依頼料の半金を受け取ります。 後の料金は成功報酬です。 じつはこの金は依頼主の依頼料の半額で、 もう半分は蔓の取り分となっています。

例えば、依頼人が100両を用意して暗殺を依頼したとします。 そのとき、50両は蔓のもので、仕掛人は 半金としてまず25両を仕事の前にもらい、 さらに、暗殺を完了した時点で、残りの半金である25両を受け取ることになります。

仕掛人は慎重に計画を練ります。 目指す相手のすべてを調べあげ、 確実に殺せるときを選び、実行します。

そして、仕事の後、かなり長い期間、仕掛人としての仕事をしません。 仕掛人の仕事とはそれほどまでにも神経をすり減らすものであり、 また、それは足がつくのを恐れているためでもあります。


殺し屋

初期職業 : 不可
必要条件 : なし
技能 : なし
特技 : 気配消し、尾行、変装
所持品 : 暗殺の道具一式
住居 : 表の職業に準ずる
兼業 : 武士、町人

ここでいう殺し屋には仕掛人は含まれません。彼らは金ずくで人を殺す プロフェッショナルです。暗黒街の顔役にとっては、仕掛人と同様に、 殺しの仕事には欠かせない存在です。

殺し屋は殺す相手を問いません。 男であれ女であれ、善人であれ悪人であれ、蔓に依頼されれば誰であっても殺します。 期限が短くてもその仕事をやってのけます。 殺し屋は仕掛人のように綿密な下調べの元に人を殺すわけではありませんが、 自分に火の粉が降り懸かるようなまねはしません。 目標となる人物を迅速に、確実に殺すプロフェッショナル、 それが殺し屋なのです。

殺し屋もいろいろな事情があって人生の裏道を歩くようになった者たちです。 しかし、彼らの中には、元から人を殺すことが性に合っていたのか、 殺しの仕事を喜んで引き受ける輩もいます。

仕掛人達は自分の殺しのテクニックに職業的な誇りを持っていますが、 殺し屋にとって殺しは「ただの仕事」にすぎません。 そのため、仕掛人は殺し屋を軽蔑し、嫌っています。

殺し屋の多くは蔓に従属しています。蔓は自分の縄張り争いや、 個人的な敵を消したりするために殺し屋を使うので、 殺し屋は自分の手足のように使えた方が都合がよいのです。 殺し屋はそんな立場を気にしてはいません。 彼らにとっての蔓とは、人一人殺しただけで大金をくれる強力なパトロンであり、 仕事をただ黙々とこなすだけなのです。 相手を殺して誰が得をし、誰が損をするのかなど、殺し屋には関係ないのです。

仕掛人と殺し屋は相容れない存在です。 もちろん共同作戦などは望めません。 仕掛人と殺し屋が同時に登場する場合は注意してプレイしてください。


盗賊

初期職業 : 可能
必要条件 : なし
技能 : 盗め
特技 : 嘘、聞き耳、時間感覚
所持品 : 黒装束、匕首(あいくち)
住居 : 表の職業に準ずる
兼業 : 町人、商人

鍵開け、罠外しのための職業ではありません。 金持ちの家の蔵から大金を盗みとることを生業にしている者達を盗賊といいます。

盗賊達にとって盗みは盗め(つとめ)です。 盗賊には金科玉条ともいえる三ヶ条があります。 すなわち、一、金のないものからとらぬこと。 二、人をあやめぬこと。 三、女を手篭(てごめ)にせぬこと。 この三ヶ条を守りぬいている盗賊達は本格派の盗賊といわれ、 真の盗賊の姿です。 彼らは、狙いをつけた商家を探り、 引き込みと呼ばれる手下を奉公人としてその家にもぐり込ませます。 そして、一年から二年のいう長い期間をかけてその家のすべてを知り、 金蔵の鍵のロウ型を取り、合鍵を作ります。 そして、ある夜、十五人から二十人の仲間達と共に盗みに入ります。 そして風のように入り、風のように去って行きます。 次の朝、その家の主人が起きてみると、金蔵はカラッポ。 家のものは誰も気付かないという、 鮮やかな手並み。これこそが真の盗賊の仕事なのです。

しかし、近頃は家の者を皆殺しにして、洗いざらい盗んで行く盗賊達が増えています。 この方法であれば、長い期間をかけることもなく盗みができます。 しかし、盗賊達の間では「畜生ばたらき」と呼ばれ、 忌み嫌われます。

他にも、全国のめぼしい商家を調べながらその情報を盗賊に売る 「嘗役(なめやく)」、 普段は一人で盗みをしている「独りばたらき」など、 盗賊のなかにもいろいろな呼び名と形態があります。


掏摸

初期職業 : 可能
必要条件 : 〈器用〉1以上
技能 : 掏摸
特技 : 尾行、忍び歩き、値踏み
所持品 : 表の職業に準ずる
住居 : 表の職業に準ずる
兼業 : 町人

人混みなどで人々が身につけている金品を巧に盗みとることを生業としている者たち、 それが掏摸(すり)です。 女性の掏摸は特に「めんびき」と呼ばれます。

掏摸が仕事をするまでには何年も修行をつまなければなりません。 人指し指と中指を砂の入った箱のなかに突っ込んで動かし、 それが空気のなかで動かすのと同じくらい自由にできるようになるまで行います。

掏摸は昼間に仕事をします。 場所は寺社の付近の行楽街など、人通りの多いところを選びます。 そこで、他人の懐から、訓練した二本の指で素早く金品をすりとるわけです。

本格派の掏摸には三ヶ条の掟というものがあります。 それは、一、貧乏人から掏摸盗ってはならぬ。 二、刃物を使ったり、汚い技を仕掛けてはならぬ。 三、いかに金が入っても地道な暮らしを外してはならぬ。 の三ヶ条です。 これは自分に足がつかないようにするための細心の注意であり、 また、掏摸を職業としている者たちにとっての誇りでもあります。


香具師の元締

初期職業 : 可
必要条件 : 香具師・ごろつきからの転職、または初期職業から継続
技能 : 商い
特技 : 地域知識、眼力、口上
所持品 : 煙管、匕首
住居 : 持ち家
兼業 : 商人

香具師の元締とは、いってみればマフィアの大ボスのことです。 彼らは盛り場や、縄張の一帯を裏で取り仕切る顔役です。 彼らは自ら表に出て仕事に手を出すことはありません。 数多くの破落戸や香具師を手下として使い、 江戸の暗黒街で勢力争いを繰り広げています。 しかし、決してかたぎの人々に手を出すことはありません。

裏の世界の住人である彼らのところには、 ときとして同心や御用聞きが事件の相談にやってくることもあります。

また、香具師の元締は仕掛人の蔓でもあります。 彼らは人殺しという非合法な仕事をうけおい、 自ら直接仕掛人に依頼にいきます。 元締達は、事件の後、足がつくような仕事は一切請け負いません。 彼らや、彼らの手持ちの仕掛人に害が及ばないようにするためです。

香具師の元締は、ほとんどの場合、表向きは商人をしています。 店の大小は差がありますが、 自分が香具師の元締であることを近所の住人に悟られることはありません。 もし、それがばれたとき、 彼らは暗黒街の顔役としてやっていけなくなります。


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